2020年10月1日
小野塚 知二
アジア研究図書館長、経済学研究科教授
図書館という容れ物と中身
東京大学本郷キャンパスでは、1928年に竣工した現在の総合図書館建物の大規模な改修工事が2015年に始まりましたが、それも今年度内には完了の見込みとなり、地下深くには自動書庫も設置されました。新しい図書館を創る構想がいよいよ実現しつつあります。この新図書館は、図書など所蔵資料の収集・整理・保存・提供だけでなく、デジタル化や情報社会化といった時代の流れに対応した新しい図書館サービスの提供も目指しています。わたしたちが2013年から準備してきたアジア研究図書館も、そうした全体構想の一角をなすものです。
東京大学は、漢籍、中国語文献、韓国・朝鮮語文献、あるいは旧植民地関係資料(朝鮮、台湾、旧満州などに関する図書・統計など)をはじめ、多数のアジア関係図書を保有しています。それは数十万冊にのぼる一大コレクションといっても過言ではありません。ただし、これらの図書や資料は総合図書館のほか、東洋文化研究所、文学部、経済学部、法学部、農学部、教育学部、情報学環、社会科学研究所など各部局図書館・図書室に分散しています。典型的な例が中国関連図書です。そのため、これら図書を利用する側から見るなら、所蔵図書を効率的に利用できる環境は、これまで充分には整備されていませんでした。そこで、2013年7月から8月にかけて、アジア研究図書館を実現する可能性とおよその規模感をつかむために、人文科学・社会科学系を中心とした関係部局に対して予備的なアンケート調査を行ったところ、多くの部局がアジア研究図書館の計画に賛同してくださり、資料の提供と集約に協力していただけることがわかりました。
アジア研究図書館の第一の目標
アジア研究図書館は、従来は各部局の図書館・図書室がそれぞれ保有してきた図書・資料を可能なかぎり集中運用して、利用者に対して総合的で効率的な図書館サービスを提供することを一つの目標としています。現時点では、総合図書館4階に、基礎的な図書を手に取って眺めることのできる開架(約5万冊)を設置し、続いて、各部局から移管される膨大なアジア関係図書を収納する総合図書館自動書庫(閉架式)、東洋文化研究所図書室に併設する漢籍類を置く分館、および人文社会系研究科に設置される分室(漢籍コーナー)を設置することを予定しています。
本年10月1日には4階開架の供用を開始し、その後、自動書庫・分館・分室も順次、利用に供するため準備を進めているところです。アジア関連文献(ベトナム語、タイ語、ヒンディー語、アラビア語などの各国・地域の現地語文献を含む)の整理には、附属図書館アジア研究図書館上廣倫理財団寄付研究部門(U-PARL)も積極的に関与してきました。U-PARLの尽力なしには、アジア研究図書館の今日はありえなかったでしょう。
アジア研究図書館のもう一つの目標
東京大学アジア研究図書館は、現地語文献にもとづく地域研究や図書館学に精通した専門図書館員(サブジェクト・ライブラリアン)の育成も計画しています。将来的には実際に専門図書館員を配置し、高度な研究支援機能を発揮することも視野に入れています。東京大学のアジア関係の蔵書の効率的運用だけでなく、学内外のアジアに関する人材と研究資源が集まり展開する、文字通りの「研究図書館」として機能すること、これがアジア研究図書館のもう一つの大きな目標です。東京大学憲章(2003年)では、「東京大学は、自らがアジアに位置する日本の大学であることを不断に自覚し、日本に蓄積された学問研究の特質を活かしてアジアとの連携をいっそう強め、世界諸地域との相互交流を推進する」とされていますが、そのための大きな一歩をアジア研究図書館は踏み出そうとしています。
アジア研究図書館のさらなる発展のために
アジア研究図書館は、部局図書館・図書室が所蔵してきた既存図書を集中運用するだけでなく、これまで個人的な営為によって収集されてきた諸地域の貴重な現地語文献・資料を寄贈図書として受入れて、研究者の利用に供することも考えています。
こうして、アジア研究図書館がさらなる発展を遂げるには、たくさんの課題を達成しなければなりません。夢が大きく膨らむと同時に、課題の多さと大きさを前にして足がすくむ思いもいたします。しかし、課題をひとつずつ克服し、先輩たちから受け継いだアジア研究図書館という構想をまったき形で実現させることができるなら、それは間違いなく日本を代表し、世界に誇りうるアジア関係図書館の誕生を意味するでしょう。また、東京大学アジア研究図書館が、将来、学内外・国内外のアジア研究機関と連携して図書館サービスを提供すれば、日本のアジア研究はさらに進展するでしょう。
わたくしどもは今後、このアジア研究図書館のウェブサイトとニューズレターを通じて、さまざまな関連情報や進行中の活動について発信していきたいと考えています。みなさまのからの絶えざるご協力・ご支援を期待するとともに、アジア研究図書館について忌憚のないご意見をお寄せくださいますようお願い申し上げます。