館長挨拶

2021年11月22日
城山 智子
アジア研究図書館長、経済学研究科教授

 

 東京大学アジア研究図書館は、2010年から進められてきた、東京大学附属図書館・新図書館計画の中核として、2020年10月に開館いたしました。総合図書館本館四階には、5万冊余りのアジア関係の図書を収める、東京大学アジア研究図書館開架閲覧室が設置されています。今後、これらの開架図書に加えて、地下自動書庫に、東アジア、東南アジア、南アジア、中央ユーラシア、⻄アジアおよびアジア全域に関わる資料を、広く収集していきます。収蔵する資料の重要な部分は、創設以来100年以上にわたって、東京大学に在籍した教員・研究者達が、様々な理由でアジア地域に関心を寄せ、集めてきた文献からなっています。東京大学が蓄積してきた学術資産(ストック)を、アジアを理解し、展望する研究・教育リソースとして再構築し、新たに重要な資料を加えて、系統的コレクションとして発展させていくことは、アジア研究図書館の最も重要なミッションの一つです。

 こうしたミッションを遂行するためには、現地で使用されている言語や、諸地域の自然環境、政治体制、社会経済、歴史文化などに関する、専門的な知識が不可欠です。アジア研究図書館では、専門的知識を有する研究者からなる研究開発部門(Research Advancement Section for the Asian Research Library, RASARL)を、2021年4月に開設いたしました。研究開発部門は、2014年以来アジア研究図書館の構築支援を行っている上廣倫理財団寄付研究部門(Uehiro Project for the Asian Research Library, U-PARL)と協働し、専門的レファレンスの提供を通じて、東京大学における研究・教育の水準を高めると共に、自らも研究プロジェクトを提案し、また学内のアジア関係プロジェクト・研究者を繋ぐプラットフォームを開設・運営するハブとなることで、新しい形の「研究する図書館」として機能していくことを目指しています。

 アジアは、ヨーロッパ以東で、ユーラシア大陸(島嶼部を含む)の面積の約80%を占め、そこには世界人口の60%余りが居住するとされています。北緯76度のシベリアから南緯11度のロテ島(インドネシア)に至る域内の気候は、内陸部のヒマラヤ山脈を始めとする大山脈や高原地帯と、それらを水源として中国を流れる黄河や長江,インドシナ半島を流れるメコン川,インド半島の北部を流れるガンジス川などの流域に広がるデルタ地帯から成る地形と相まって、様々な自然環境を形成しています。そこに生きる人々のエスニスティや宗教といった属性や意識等も、いくつもの時間軸の中で、複雑に関係しながら多岐にわたります。アジアに目を凝らし、耳を傾けると、自然と人間が織りなす多様性に気づかされると同時に、地域の中にある日本についても、新たに思いを巡らすことになるでしょう。アジアについて考え、問いかけ、知ることは、東京大学が探求している、多様性の理解と、対話による未来創造の実践でもあります。東京大学アジア研究図書館は、このような知的営為に資する、リソースとリテラシーを提供することを通じて、利用者の皆様と共に、新たな社会創造に参画して参ります。