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　1929年5月9日、時の駐英大使松平恒雄はロンドンのイギリス外務省で外務大臣サー・オースチン・チェンバレン（Sir Austen Chamberlain）から、1冊の本を寄贈される。イギリスからの寄贈本7万点の代表として手渡された『チョーサー著作集』。ウィリアム・モリス（William Morris, 1834-96）のデザインしたチョーサー活字、バン=ジョーンズ（Edward Burne-Jones）による87点の挿図、ダブズ製本所による白豚で全革装されたモリスの印刷所「Kelmscott Press」の最高傑作。モリスは社会改革者、装飾デザイナー、著者、印刷者という多様な肩書きを持ち、ビクトリア朝のイギリスで衰微する印刷術に警鐘を鳴らそうと試みる。基本に返るという考えに立って、15世紀の活字書体を基にして書体をデザインし、手漉き用紙を使い、一連の作品をケルムスコット印刷所から出版。これが契機で、「Private Press」運動が起こり、印刷に対する関心が商業印刷を含めて高まって行く。（髙野　彰）