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01 馬琴日記 天保5年 滝沢馬琴自筆本 1冊 [焼け残り本]

 『南総里見八犬伝』など膨大な作品を残した滝沢(曲亭)馬琴(1767~1848)の自筆日記である。大震災当時の図書館長だった和田萬吉は、「大正震災前、本館旧蔵の馬琴日記十五冊を数へしも、却火に遭ひ、辛ふじて之一冊を残すのみ。昭和五年十二月に至つて修覆を了せり」と、断腸の思いを吐露している。今回展示した天保5年の日記のみ、和田萬吉が研究のために書庫から借り出していたので、奇蹟的に「劫火」を免れたのである。他には、早稲田大学・天理大学等に、数年分の自筆日記が現存するだけである。内田魯庵は、この日記について、馬琴は教養たっぷりの壮大な作品を書いたけれども、「日記は俗談平語で、たゞのおやぢの茶ばなしを聴くやうである」と述べている。そして、「筆の跡が乱れてゐて読み辛い」が、綿密な日記を書いたのは「大気根」(大変な根気)だと感嘆している。展示した天保5年11月の部分は、同時代に出版された『江戸繁昌記』を読んだことなどが書かれている。馬琴の人柄そのままの細かな筆跡である。(島内景二)

02 三才窮理書 髙野長英自筆写本[焼け残り本]

第1~3冊 De volmaaktheden van den Schepper in zijne schepselen beschouwd

[ter verheerlijking van God en tot bevordering van nuttige natuurkennis. Herzien en  op de tegenwoordige hoogte der wetenschap gebracht](神の作りし無欠の創造物)

原書 著者:UILKENS, Jakob Albert.  Leeuwarden: G. T. N. Suringar, [1849-57].

第4~5冊 第1と第3冊の部分複写

第6冊 [T]waalfde. [Za]me[ns]praa[k].  Over de planten.
     Dertiende Zamenspraak.  Over de lierlijte ligcraam.  だけの部分筆写
     原本はJohannes Buys のNatuurkundig schoolboek(自然科学の教科書)か?

 髙野長英(1804-1850)によるオランダ語本の自筆写本。第1~3冊の原本は神の存在を「自然の驚異」(自然科学)を通して説明した精神神学書。第6冊は原本がバイス(Buys)本であれば、自然科学の入門書。「三才窮理」とは物理学なので、長英は第1~3冊も物理学書ととらえていた。18世紀のオランダでは一般市民向けの入門書を問答形式にしたので、第6冊も会話調。第2冊目の巻頭ページには「Takano Tjooei」(展示あり)、第1冊目の巻末には「Takino」とある。「髙野長英記念館」の所蔵品では「takano tyoeei」となっているので、日本語を音で表記するときの揺れが、表記の差となったのか。赤門のすぐ左手の「コミュニケーションセンター」は震災で焼失した図書館の旧製本所(築97年)。製本室と倉庫からなり、倉庫には「三才窮理書」などのオランダ語本を収蔵。大切に保存した図書館の蔵書が灰燼に帰したのに対して、利用が少ないことから、倉庫に積み重ねておいた本が生き残るのは運命の皮肉である。(髙野 彰)

03 武鑑 文化12年 (須原屋茂兵衛) 3冊 [鷗外文庫]

 森鷗外(1862~1922)の遺族から寄贈された蔵書の中には、264 点にのぼる『武鑑』コレクションがある。『武鑑』とは、大名・旗本の氏名や、その年ごとの官位等を列挙した書物である。江戸時代の歴史に興味を持った鷗外は、『武鑑』の系統だった収集を開始した。すると、「此蒐集の間に、わたくしは弘前医官澁江氏蔵書記と云ふ朱印のある本に度々出逢つて、中には買ひ入れたのもある。わたくしはこれによつて弘前の官医で澁江と云ふ人が、多く武鑑を蔵してゐたと云ふことを、先づ知つた」(『澁江抽斎』)。かくて、鷗外の史伝の最高傑作『澁江抽斎』が誕生したのである。ここに展示したのは、鷗外が抽斎という人物の存在を知るきっかけとなった「弘前医官澁江氏蔵書記」の朱印の押された『武鑑』である。書物と蔵書印が、時代を超えて文人の心を結びつけたのだ。(島内景二)

04 武鑑 正保2年 森鷗外自筆写本 [鷗外文庫]

 ここに展示するのは、『武鑑』に強い関心を持った鷗外が、総合図書館の所蔵していた正保2年の『武鑑』を、大正4年に自ら全編にわたって書き写したものである。鷗外が筆写した原本の『武鑑』は、大正12年の震災で焼失した。鷗外文庫の寄贈に伴って、総合図書館蔵書を写した本が、言わば「里帰り」したのは、書物という生命体がたどる不思議な運命を感じさせる。鷗外が書写するほどの執着を示したのは、この正保2年の『武鑑』が最古の『武鑑』であると、鷗外は確信したからである。『澁江抽斎』によると、上野図書館に所蔵されている写本に記されていた澁江抽斎の考えも、鷗外と同じ結論だったという。鷗外の厳密な心のありようと、書物への執心を存分にうかがわせる。(島内景二)

05 ファウスト ゲーテ レクラム文庫 合冊製本 1冊
05 Faust. Leipzig, Reclam [n.d.] (Goethe's sämmtliche Werke in fünfundvierzig Bänden. Bd.11) [鷗外文庫]

 森鷗外は、レクラム文庫の『ファウスト』に膨大な書き込みを残している。鷗外を敬慕していた吉田健一の『書架記』には、「もし鷗外が持つてゐたレクラム版の『ファゥスト』が今あるならばこれが珍品中の珍品であるのは読書家の鷗外の精神がその本に籠つてゐると見られるからである」と書かれている。「もし」ではなくて、鷗外所持のレクラム版『ファウスト』は鷗外文庫の一冊として確かに存在し、傑出した読書家にして独創的な思想家だった鷗外の「精神」のありかを現代に伝えている。展示部分は、『ファウスト』の表紙部分だが、「明治十九年一月徳停府 鷗外漁史校閲」とあるので、ドイツ留学中の1886年1月に、ドレスデンで「校閲」(思索的読書)を開始したことがわかる。膨大な書き込みは、ドイツ語と漢文との二種類があり、鷗外が読書中にふと抱いた「感興」を如実に伝えている。(島内景二)

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