附属図書館長からの挨拶
東京大学附属図書館の蔵書は、2023(令和5)年度に1,000万冊に達しました。1,000万冊の蔵書を持つ大学図書館は、国内初となります。
東京大学には、総合図書館、駒場図書館、柏図書館という3つの拠点図書館と、学部・研究科や研究所等にそれぞれ設置されている27の部局図書館・室があります。これら30の図書館・室が一体となって「共働する一つのシステム」としてサービスを提供しているのが「東京大学附属図書館」であり、蔵書数1,000万冊は附属図書館30館の蔵書の合計です。
東京大学附属図書館のはじまりは、1877(明治10)年に神田一ツ橋の法理文三学部の構内に設けられた図書館です。三学部の蔵書約28,000冊と予備門の蔵書約26,000冊を合わせ、およそ54,000冊の蔵書を有していました。また、医学部には東京医学校から引き継いだ書籍室がありました。以来、学部・研究科や研究所等が新設され大学組織が拡大していく中で、各部局に図書館が設置されましたが、1923(大正12)年には関東大震災に見舞われ多数の蔵書が灰燼に帰しました。1928(昭和3)年に多くの支援を受けて現在の総合図書館が再建されてからも、太平洋戦争中には一部のキャンパスで空襲の被害を受け、複数の部局で蔵書疎開も行われました。戦後には東大紛争による封鎖を余儀なくされ、東日本大震災による被害などもありました。
この間、全学における学習・教育および研究活動を支援する使命は変わらないものの、附属図書館に求められる役割や機能は大学の発展や社会環境と共に変化し、そして多様化しています。これまで附属図書館では、基盤的な学術情報を安定的に整備するため、学術雑誌等の購入経費の全学共通経費化を実現し、また、学習・教育に資する学生用図書の充実にも努めてきました。紙の蔵書を拡充整備するとともに、電子リソース(電子ジャーナル・電子ブック・データベース)の整備も行っていますが、いつでもどこからでも利用できるその利便性はコロナ禍により再認識され、今後一層の充実が求められています。
さらに、本学で創出される世界水準の研究成果を国内外に広く発信し、社会に還元するために、学術機関リポジトリ「UTokyo Repository」を構築・運営し、学術論文等の公開・オープンアクセス化にも力を入れています。2023(令和5)年2月に東京大学の研究データ管理・利活用ポリシーとオープンアクセスポリシーを策定しましたが、2024(令和6)年2月には国の方針も策定され、オープンサイエンス・オープンアクセスの推進における図書館の役割が再認識されているところです。
また、東京大学が保有する学術資産を電子化し発信するデジタルアーカイブズ構築事業を進めています。学術の多様性を支える基盤の強化を目指し、全学の部局と連携してデジタルアーカイブを構築することにより、時と場所を選ばすに本学の豊かな学術資産にアクセスできる環境を整えることに力を注いでいます。
こういったデジタルデータと、蔵書という伝統的な資料が共存していることが、図書館の価値を高めてもいます。東京大学の基本方針「UTokyo Compass」の根底には文理融合や東西融合の考え方がありますが、図書館はこれらに加えて伝統と革新の融合と言えましょう。どちらが欠けても東京大学附属図書館は成立しません。
東京大学附属図書館は、知の協創の世界拠点としての東京大学の研究・教育活動の基盤としての役割を果たし、その学術資産を新しい形で社会に還元すべく、今後もこれらの整備と提供に邁進して参りたいと存じます。利用者の皆様には図書館を活用いただくとともに、一層のご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げます。
東京大学附属図書館長
坂井 修一