図書館コンペティションの受賞作品が決まりました
学生の皆さん、この度はデジタル図書館コンペティション「東大図書館をデザインせよ! Next Library Challenge 2030」にご応募いただき、ありがとうございました。
アイデアを競う「考えてみた部門」、実際にプロダクトを作成する「作ってみた部門」の両方で予想を上回る多くのエントリーがあり、また様々な部局からご応募いただけたことに心より感謝申し上げます。
厳正なる選考の結果、応募総数35件のうちから、最優秀賞1件、部門賞2件、健闘賞8件を決定しましたので、ここに発表いたします。
■全体講評
附属図書館では現在、教職員で構成するデジタル図書館タスクフォースのメンバーを中心に未来の大学図書館のあり方を検討しています。そこに学生ならではの柔軟な発想、図書館への要望を積極的に取り入れたいと考え、当館にとっては初めてとなるコンペティションを実施しました。
テーマは「2030年の大学図書館」。なるべく自由な発想で2030年の世界を描いてもらうために、敢えて公募条件は厳しくしませんでした。そのためエントリー作品の中には、このコンペティションのために一から考えたもの/作ったものと、既に完成しているアプリケーションや活用実績のあるツールをベースに構築した作品が混在しています。また中には、現行の著作権制度や適切なデータの取り扱いの観点から見ると、実際の運用においては工夫が必要と思われるアイデアも見受けられました。ただ前述のとおり、今回のコンペティションでは2030年の大学図書館を自由に考えてもらうことを第一の目的としました。5年後とはいえ予測が難しい時代の未来を考えてもらうにあたり、制約の多い議論・発想で終わることがないようにと考えながら実施しました。またそのことを念頭に置き、学生が持つ考えの斬新さ、学生ならではの視点、図書館への期待などを重視しながら審査しました。その点はどうぞご了承ください。
応募のあった作品はどれも素晴らしく、入賞作品を選ぶことはとても難しい作業でした。今回は計11点の入賞作品を選びましたが、その他も含めた全作品から、今後の図書館を考えるうえでのヒントを沢山いただくことができました。改めてエントリーいただいた学生の皆さんに感謝いたします。
【最優秀賞(1件)】
Biblogue UTokyo Book Forum(作ってみた部門)
- 神田紗英さん(文学部)<代表>
- 高橋那於さん(前期教養学部)
- 秋山久人さん(経済学部)
- 栗秋健吾さん(前期教養学部)
- 藤田ことりさん(教養学部)
- 金子遼太朗さん(前期教養学部)
- 川嶋結己さん(前期教養学部)
(講評)文理の偏りのない、様々な学部の学生によって考えられた図書館利用者の学術交流を促進するプラットフォームの提案で、図書館で生まれるコミュニケーションを記録・共有し、知のアーカイブとして発展させている点を高く評価しました。またこの構築にあたり、綿密な調査や関係者等へのインタビューが行われている点も素晴らしく、将来の大学図書館像を示す提案として最優秀賞にふさわしい作品でした。
【部門賞(2件・各部門で1件)】
UTokyo Synaptic Field(考えてみた部門)
- 坪井公佑さん(医学部)
(講評)「知と人が出会い、新たな知が生まれる場所」をコンセプトに、図書館が単純な貯蔵庫から生産拠点へ転換することを目指した具体的な提案と言えます。明確なコンセプトのもと、ユースケースや2030年までの実装スケジュールの提示など詳細な検討を行っている点も評価でき、「考えてみた部門」の部門賞にふさわしい作品でした。
Youbee:「読み会」で自主的な学びの場を小さくつくる(作ってみた部門)
- 二瓶雄太さん(工学系研究科)<代表>
- 山路湧さん(新領域創成科学研究科)
(講評)学生間の学びのつながりを生み出す、実用性の高い「読み会」支援アプリケーションであり、また手軽に使えるツールであることから、継続的な運用が期待できるプロダクトとして評価しました。読書会のSNS化、積読(つんどく)の解消といったコンセプトも興味深く、その完成度の高さから「作ってみた部門」の部門賞にふさわしい作品でした。
■健闘賞(8件)
未来へ残す東大の「今」(これまで収集していない種類の資料の収集)(考えてみた部門)
- 野中俊志さん(農学部)<代表>
- 鈴木希実さん(文学部)
(講評)デジタル技術を活かし、これまで保存が難しいとされてきた立て看板やポスターなどを保存していくという視点が新鮮であり、大学の記録の必要性を捉えた提案として評価しました。作成者自身がコンテンツを登録する仕組みや、博物館(Museum)・図書館(Library)・文書館(Archives)が繋がる「MLA連携」の可能性など実践的な広がりも期待できる一方で、既にある機関リポジトリの機能を拡張したものとも言える、という指摘もありました。
Co-Production Library ~当事者参画による包摂的な知識共創空間~(考えてみた部門)
- 高橋優輔さん(医学系研究科)
(講評)障害を持つ当事者が、自らの経験知を学術的知識として発信できる図書館モデルの提案で、対話型AIツールが当事者の経験の言語化を支援するといった技術面でのサポートも考慮されている点が素晴らしかったです。また、UTokyo Compassや本学のD&I宣言の理念にも合致した内容であること、当事者の視点に立つという他にはないアイデアを評価しました。
Living Library VR ─ 生きた図書館空間(作ってみた部門)
- 小松尚平さん(学際情報学府)
(講評)図書館は利用者からの問いにどう応えるか、を起点としたシステムの提案で、VR空間やアバターなどの技術を活用し、資料閲覧を対話的に行える仕組みが興味深かったです。デジタルアーカイブの活用例でもあり、また資料の捉え方を広げる可能性を示す提案とも言えます。なお実装には図書館資料の大量デジタル化や著作権処理が必要との指摘もあり、将来的な環境整備による展開を期待します。
「写真から導かれる知の地図 – Memories of Asakusa」(作ってみた部門)
- 柳智娟さん(学際情報学府)<代表>
- 村山美耶子さん(学際情報学府)
- イ ソジョンさん(学際情報学府)
(講評)写真を起点にテーマや学問分野を直感的に探索できるよう設計されたアーカイブシステムで、利用者の興味を喚起させるという効果が期待できる作品でした。また生成AIに頼るだけでなく、基礎データ整備の重要性を指摘している点も評価しました。なお、これによって作られた創作の物語から利用者が学べることは何か、といった点の検討も必要という意見も出されました。
「MEDIA CANYON ─知の渓谷」(考えてみた部門)
- 安部道裕さん(工学系研究科)
(講評)個々の利用者が、デジタル図書館上に置かれた本棚から情報を発信し、図書館がそれをつなぐことで学習・研究を広げるというアイデアに新たな可能性を感じられました。利用者と一緒にメタバース上の図書館を構築していくという発想が魅力的であり、今後のデジタル空間での図書館の在り方として参考になるものと言えます。
「なめらかな知性とその敵:手触りが良い図書館への」(考えてみた部門)
- 水野晋之介さん(医学部)
(講評)利用者の属性・背景などから類推される、その人にとっては未知の資料を図書館が提示するという提案で、デジタル図書館の強みを活かしており、新たなサービスへ発展する可能性が感じられました。今後更なる思考を重ね、より具体的なサービスのアイデアが生まれることを期待します。
「AI読書メモアプリ Kokudoku」(作ってみた部門)
- 小林千晃さん(工学系研究科)<代表>
- 近藤俊さん(情報理工学系研究科)
- 吉井秀旭さん(情報理工学系研究科)
- 関大也さん(教育学研究科)
- 中野仁詩さん(工学系研究科)
- 濵田和希さん(工学系研究科)
- 松島弘幸さん(工学系研究科)
(講評)図書館の本には書き込みができない、重要ポイントのメモを取るのは手間がかかる、といった実体験をもとに構築されたアプリケーションで、現在利用できる技術を用いてコンパクトにまとめられていました。なおデジタル図書館での実装を考えると、現行の法制度では実施が難しい面があるように思われ、そういった課題を意識した検討・開発が今後は望まれます。
「Libubrary(SNSアプリ「Bubble」の機能を用いた新しい図書館専用アプリの提案)」(作ってみた部門)
- 杉山立弥さん(教養学部)
- 式守隆人さん(理学系研究科)
(講評)既存のSNSアプリケーションを使用し、大学図書館利用者の専用SNSアプリケーションとして再構築したもので、既存アプリの活用により作品の安定感がありました。デザイン性も高く今後の展開が期待できますが、一方で通常のSNSアプリケーションとの差異、図書館との直接的な関係がどこまで深められるかが課題としてあるように思う、といった意見もありました。
本件の問合せ先
東京大学附属図書館総務課企画渉外チーム
dltf-event-group@g.ecc.u-tokyo.ac.jp