理学系研究科大学院生のお薦め本 2024

理学系研究科の大学院生に「自分が最も注目していて、みんなに読んでほしい・知ってほしい図書」の紹介文を書いていただきました。紹介している図書は全て理学図書館または学内図書館で所蔵しています。 一部、電子ブックでも利用できる資料もあります。本選びの参考になれば幸いです。

※ 紹介文は、理学図書館所蔵資料(冊子)の請求記号順に並んでいます。
※ 図書の貸出や学内外の図書館からの取り寄せ方法はご自身のホームライブラリのウェブサイト等をご確認ください。
※ 学外から電子ブックを利用する方法はこちらをご確認ください。
※ 2024年6月3日(月)~6月27日(木)に、理学図書館(理1号館)3階展示コーナーでパネル展示を行います。
※ 紹介文執筆者の所属・学年は執筆当時(2023年度)のものです。

(2024年6月3日掲載)

目次(クリックすると該当の紹介文にジャンプします)

【1】Python科学技術計算 : 物理・化学を中心に

【 編著者 】Christian Hill 著, 大窪貴洋 [ほか] 訳
【 配架場所 】理学図書館(理1号館)3階 一般図書
【 請求記号 】004.4:18:T
【 電子ブック 】なし

*東京大学OPACの情報はこちらからご確認ください。
 

「科学技術計算に必要なpythonの基礎がここに!」

科学技術計算においては、プログラミングによる数値実験・データ解析・可視化は不可欠である。
その背景もあり、学年が進むにつれてコードを実装する機会は増えていく。
この際には既存のコードの改良・共有は作業を減らす観点において重要である。
しかしこの時、可読性が低かったり効率が悪かったりなどいわゆる「汚い」コードになっていると改良や共有に際して問題が発生することがあり、結果的に作業量を増やすことにつながる。
このような汚いコードが生まれる際には、プログラミング言語への理解度不足が背景にあることが少なくない。

これを踏まえ、近年ユーザーを増やしているPythonに関する入門書である『Python科学技術計算』(原著第2版の翻訳)を紹介する。
この本では、Pythonに関して初歩や重要なライブラリ(NumPy、Matplotlib、Scipy、Pandas)を説明しながら科学技術計算の実例をサンプルコードと共に示しており、科学技術計算に必要な知識が一通り揃っている。
そのため、自らの科学技術計算にPythonを取り込みたいと考えている方にはおすすめの一冊である。

(天文学専攻・博士1年)

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【2】系外惑星探査 : 地球外生命をめざして

【 編著者 】河原創 著
【 配架場所 】理学図書館(理1号館)3階 学生用図書
【 請求記号 】53:K00:120、523.4:96
【 電子ブック 】なし

*東京大学OPACの情報はこちらからご確認ください。
 

「系外惑星の基礎から観測解析まで幅広く学べる一冊」

私がこの本に出合ったのはまだ学部2年生の時だった。
地球外生命の探査という点と割とポップな装丁に惹かれて購入したが、当時はまだあまり知識がなかったため計算式を一行一行必死にフォローし読み上げた。その時は「フーンこんなものか」くらいの感覚であったが、いざ実際の研究を始めてみるとこの書の内容が頻出し、この書の扱う内容の重要さに改めて気が付いた。今では何かわからないことがあった時にとりあえずめくってみる一冊になっている。

思い出話はここまでにして本書の特徴について述べていこう。
本書はいかに地球外生命のいる惑星を見つけるかというテーマから、系外惑星の探査について、天文学的の基礎や惑星大気の特性から観測の手法、装置、データの解析手法まで、一連の流れを学生向けに解説した一冊である。扱うテーマは広範だが、それぞれのテーマについてしっかり解説されており、全編を読破して全容を把握するだけでなく、気になる点をピンポイントに参照するために開くという使い方もできる。
初めて系外惑星や地球外生命というテーマに触れる方から、すでにこの分野にあって基礎的な部分を確認し直したいという方にも、幅広くお勧めできる一冊である。

(天文学専攻・修士1年)

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【3】Group theory in a nutshell for physicists

【 編著者 】A. Zee
【 配架場所 】理学図書館(理1号館)4階 一般図書
【 請求記号 】53:A02:79
【 電子ブック 】なし

*東京大学OPACの情報はこちらからご確認ください。
 

「群論の美しさと物理学への旅 ―直感から深遠な理論へ―」

物理学の歴史において群論は、その複雑さと美しさとで多くの人々を魅了し続け、また不可欠な役割を果たしてきました。この本は、群論の理論物理学における応用に特化しており、それが難解な数学の概念に過ぎないという誤解を解くことを目的としています。著者は、群論が本当は非常に物理的な概念で、直感的かつ容易に理解可能であるということを読者に伝えようとしています。

そのため、重要な定理や概念は物理学者が受け入れやすいレベルの厳密さで証明し、直感的、具体的、実用的な側面に重点を置いています。群論の基礎から始めて、離散群(discrete groups)、リー群(Lie groups)、およびそれらの表現(representations)について紹介し、その後、量子力学や量子場理論を含む特定の物理学分野における群論の応用に深く迫ります。

この書籍は、その言葉遣いの面白さとユーモアで際立っており、物理学者に向けて書かれています。著者は非常に熱心で、物理学と数学で一般的に使用される記法や慣習の違いまで脚注で触れています。本書は非常に実用的であり、理論物理学や量子化学の研究者にとって大変有益な一冊となるでしょう。

(物理学専攻・博士1年)

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【4】Scattering amplitudes in gauge theory and gravity

【 編著者 】Henriette Elvang, Yu-tin Huang
【 配架場所 】理学図書館(理1号館)4階 一般図書
【 請求記号 】53:C10:154
【 電子ブック 】あり

*東京大学OPACの情報はこちらからご確認ください。
 

「場の量子論の計算の煩雑さに嫌気が差したことのある人に読んでほしい一冊。」

本書は、場の量子論における散乱振幅に焦点を当て、従来のファインマン則に基づく計算とは異なるフォーマリズムを議論しています。

場の量子論の計算が非常に煩雑であることは物理を勉強している人の間では有名なことだと思いますが(さらに厄介なことに、多数のファインマンダイアグラムを足し合わせる際に膨大な量のキャンセレーションが生じ得ます)、本書を読むと何故あれほど煩雑になってしまっていたのか、そしてどのように手続きを簡略化するのかということが分かります。さらに面白いことに、異なる粒子数の散乱プロセスの散乱振幅という別の物理量の間に漸化式的な関係が成り立つことや、重力理論とゲージ理論の散乱振幅の間に双対性が成り立つことが明らかとされます。

本書の醍醐味は、そのような理論の美しさを味わうことにあります。また、場の量子論をある程度勉強した人は本書を読むことで場の量子論をより深く理解できるでしょう。また、散乱振幅を扱う研究を行っている人にとっては、本書の内容はダイレクトに役に立つかもしれません。

(物理学専攻・修士2年)

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【5】生物と無生物のあいだ

【 編著者 】福岡伸一 著
【 配架場所 】理学図書館(理1号館)4階 一般図書
【 請求記号 】53:H00:101
【 電子ブック 】なし

*東京大学OPACの情報はこちらからご確認ください。
 

「『生命とは何か?』を科学的かつ詩的に紐解くミステリー。」

石ころも貝殻も、同じ原子からできているのに何が違うのか?生命とは何か。あなたならどう定義しますか?本書は生命科学最大の謎ともいえるこの問いに、時には科学史に遺された天才科学者たちの物語、時には著者自身の研究所での生活と思考を織り交ぜながら、科学的に考察していくエッセイ(?)である。

野口英世、ワトソンとクリック、シュレディンガー、シェーンハイマーといった歴史上の天才科学者たちの生き様、思考、研究、競争、考察、言及。そして著者がロックフェラー大学とハーバード大学のポスドクとして研究した日々。映画化でもできそうな人間ドラマの中に、普段は意識の俎上に載らない生命という仕組みの不思議さ、美しさが綴られていく。

理学系研究科・理学部の皆さんに本書を推す理由は至極単純、科学研究の探究や発見に対するワクワク感、焦燥感、カタルシスが肌で感じられるからである。

生物学、生命科学に明るくないという人も大丈夫。著者特有の比喩表現に溢れた叙情的な筆致に否が応でも引き込まれてしまうだろう。第1回新書大賞のベストセラーという事実がこれを担保する。

生命とは何か、生物と無生物のあいだ(境界)にあるものは何か。本書読了後、あなたの世界の見方は必ずや違ったものになるだろう。

(生物科学専攻・博士2年)

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【6】分子地球化学 = Molecular geochemistry

【 編著者 】高橋嘉夫 編
【 配架場所 】理学図書館(理1号館)3階 学生用図書
【 請求記号 】550.4:82
【 電子ブック 】なし

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「環境問題への理学的なアプローチ」

環境問題や資源問題は地球科学系以外の理学の方にはあまり馴染みがないかもしれません。考えなければいけない問題であるのは知っているけれど、面倒で厄介なものだと感じている人も多いと思います。私も理学部に入った時にはそのように感じていました。

しかし、こうしたマクロスケールの事象も、元素の移動や集積といったミクロな現象から成り立っています。 周期表に記載されているうち約90種の元素が地球上に存在していて、周囲の環境に応じて様々な化学状態をとることが知られています。
大気・海洋・岩石圏・生命圏といった地球上の多様な環境の中で元素がどのような状態で存在し、集積あるいは移動していくのかを明らかにしていく過程では、化学熱力学を含む物理化学や量子化学など、化学全般の知識を応用する必要があります。

実学的でありながら理学的な好奇心を満たすこともできるという点において、化学系・生物系など、地球科学系以外の理学の方にも本書をおすすめします。

(地球惑星科学専攻・博士1年)

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【7】見る目が変わる博物館の楽しみ方 : 地球・生物・人類を知る

【 編著者 】矢野興一 [ほか] 編著
【 配架場所 】理学図書館(理1号館)3階 一般図書
【 請求記号 】57:74
【 電子ブック 】なし

*東京大学OPACの情報はこちらからご確認ください。
 

「自然史博物館の標本の見かたとは?」

理学を専攻する皆さんにとって、博物館といえば何を思い浮かべるでしょうか? 圧倒的な存在感をみせる巨大恐竜の化石、展示室いっぱいに並ぶ哺乳類の剥製、様々な色彩に輝く鉱物など、自然科学に興味をもつ“きっかけ”が詰まった場所ではないでしょうか。

本書は博物館とその展示物について、もっと深く学びたい人にはたまらない、博物館の見方を教えてくれる1冊となっています。標本やレプリカがどのように作製されているのか、どのように展示されているのか、展示物のどこを観察したらよく分かるのか、一度は疑問に感じた方が多いでしょう。本書では、そもそも博物館は何から始まったのかという起源に始まり、鉱物、恐竜・古生物、菌類、植物、昆虫、魚類、動物、考古学の多岐にわたる分野について、標本の作り方や展示のポイントが解説されています。

将来、博物館学芸員を目指す人はもちろんですが、自然史標本を研究する地球科学、生物学、人類学を専攻する学生にもたまらない内容となっているでしょう。

(地球惑星科学専攻・博士1年)

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【8】論文図表を読む作法

 ~はじめて出会う実験&解析法も正しく解釈! : 生命科学・医学論文をスラスラ読むためのFigure事典~

【 編著者 】牛島俊和, 中山敬一 編集
【 配架場所 】理学図書館(理1号館)3階 一般図書
【 請求記号 】61:Jkb:2022-2
【 電子ブック 】あり

*東京大学OPACの情報はこちらからご確認ください。
 

「 生命科学や医学系論文で使われる図表の意味が一目で分かる
    生物系の論文を読み始める際にオススメの一冊  」

研究室配属が決まり、本格的に論文を読み始めると見たことのない解析方法や図表に出会うことは少なくありません。

その際に図表の意味や目的を理解するために苦労した経験は誰しもあるでしょう。図表は研究の結果をわかりやすく示したものであり、論文の内容を正確に把握する手掛かりとなるものです。しかし、その意味や目的を知らなければ内容を十分に理解することはできません。

本書は図表を理解する際に必要な原理の概要や図表の見方、注意点といった情報が見開き1ページでコンパクトにまとめられています。実験や解析の詳細は割愛されているものの、非常に簡潔な形でどのような目的で、何が示されているのかが記載されています。また、生物系の図表に関する情報は勿論のことながら、統計や情報解析に関する記述も含まれているのも嬉しいポイントです。

これから研究を始める生物学科の学生や専門外だが生物系の論文を読む必要があるという方におすすめの一冊です。

(生物科学専攻・博士1年)

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【9】量子と位相

【 編著者 】大貫義郎 著
【 配架場所 】総合図書館3階開架、駒場図書館4階開架
【 請求記号 】420.8:B97:6(総合図書館)、421.3:O68(駒場図書館)
【 電子ブック 】なし

*東京大学OPACの情報はこちらからご確認ください。
 

「知っていそうで知らない位相」

この本は量子力学について書かれた本である。量子力学は広い分野で盛んに研究されているが、情報系の学問では量子暗号や量子コンピュータ、化学系では電子密度計算などに用いられており、自分の研究分野と異なる内容だと全然知らない応用の仕方をしている場合がある。私は化学科でシュレーディンガー方程式から量子力学(量子化学)を勉強したが、物理学科の友達と量子力学の話をすると学んでいる内容が全然違うことに気がついたので、この本を借りることにした。

波動関数は絶対値と位相の情報を持つ。ある波動関数とその波動関数の複素共役を掛け合わせるとその波動関数の絶対値が得られ、位相の情報は消えてしまう。位相を変化させない演算子を扱っている場合には位相について深く注目することはないが、量子コンピュータなどの分野では位相を狙って変化させるような演算子を用いることで計算に役立てるような応用が用いられることもあり、そのような分野では位相は重要な情報となる。

この本は現在絶版になっており、古本屋などを探してもあまり売っていないが、図書館には蔵書があるので読むことができるので、是非借りて読んでみてほしい。

(化学専攻・修士1年)

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