学生スタッフによる図書紹介(2021春)

学生スタッフによる図書紹介

理学系研究科・理学部の学生スタッフが、自身の研究や勉強に役立った図書の紹介文を書きました。紹介している図書の多くは理学図書館で所蔵しているか、本学で電子ブックが利用できます。本選びのご参考に、ぜひご覧ください。
※書影(表紙画像)は「版元ドットコム」で公開されているものを利用しています。
※紹介文執筆者の所属・学年は執筆当時のものです。
※図書の貸出、学内他館からの取り寄せ方法、学外から電子ブックへのアクセス方法などの詳細は、「利用案内」をご覧ください。
※紹介文は、理学図書館所蔵資料(冊子)の請求記号順に並んでいます。


目次


The R tips : データ解析環境Rの基本技・グラフィックス活用集 / 舟尾暢男(フナオ ノブオ)

第3版/オーム社/2016年

【特にこんな人におすすめ!】統計の授業などでRに触れたことがあるが,イマイチ理解できていない人
学生実験や卒業研究でデータ処理や統計解析を行いたい人
【キーワード】統計,R,データ解析,生物学

 本書はプログラミングを専門としないけれど授業や研究でR言語を使う必要のある人が,Rをある程度使いこなせるようになるための道標となる本である.
 生物系の学問を学ぶ人の中には,グラフの作成や統計検定のためにRを使った経験のある人がいるだろう.Rはフリーのプログラミング言語・環境であり,特に生物系の分野で愛用されている.遺伝子発現解析などの解析手法を扱った書籍や統計の教科書には,実践例としてRのコードが掲載されているものが多い.ただし,これらの本はプログラミングの解説書ではないため,その本だけではRを使いこなすことはできず,いざ解析を行おうとしても,見慣れないエラーに悩まされ,小さな疑問につまずいて中々進まないという経験をすることとなるだろう.筆者もその一人だった.
 本書は自分のパソコンにRをインストールして立ち上げるという初歩から始まり,よく使われる基本的な関数やデータ構造といったRを使いこなすために不可欠な知識が一通り解説されている.また綺麗なグラフを作成する方法や,統計検定を行うための関数の説明も充実している.もっと複雑なことをRで行いたい人のために,数値シミュレーションや機械学習にも触れられている.
 Rを初めて使う人にとっては良い入門書として,使ったことはあるけれどイマイチ理解できていない人には,知識の穴を埋める架け橋として,ぜひ本書を活用していただきたい.

(生物科学専攻・修士1年)

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Astrophysics of planet formation / Philip J. Armitage

2nd ed./Cambridge University Press/2020

【特にこんな人におすすめ!】惑星の形成に興味がある人
【キーワード】天文学・天体物理学・系外惑星・惑星形成・原始惑星系円盤

 太陽系外の惑星(系外惑星)が発見されて以来、惑星形成の理論はそれ以前とは比べ物にならないほど複雑かつ多様になりました。太陽系では考えられないような様々な特性を持った系外惑星が数多く見つかっており、それを説明するような形成理論が現在も議論されています。
 筆者は学部2年の頃に小久保英一郎先生(国立天文台)の講義を受けて惑星形成理論に興味を持ち、発展した教科書として紹介されたのが当書Armitage (2020)の第一版であるArmitage (2013) です。興味が出た私はすぐ購入し、時間をかけて通読しました。近年発刊された第二版の当書では、近年の観測的成果や理論的成果が付け加わっています。(第一版を買ってしまい再購入したくない私を含めた)学生にとって有難いことに、理学図書館は当書を購入してくださっていて、SSL-VPN Gatewayサービスを用いてCambridge Coreというページから当書をダウンロードすることが出来ます。

当書は惑星形成のプロセスに沿ってそれぞれの物理的な過程を紹介している体系的な教科書です。具体的に書くと

・惑星系についての観測結果
・原始惑星円盤の構造と進化
・微惑星の形成
・岩石/巨大惑星の形成
・惑星系重力によるガスの動的進化

というような内容となっています。いずれのプロセスも丁寧に記述されており、惑星形成の研究をする為に必要な知識がまとまっていると言えるでしょう。また、このような濃密な内容であるにもかかわらず300頁程度に収まっており、ゼミ等でも気軽に読めるという事も特徴でしょう。各章末にFurther Readingとして論文が紹介されているのも、研究するにあたって非常にありがたいと言えます。

 我々が住む地球の起源に関わる惑星形成を研究したい、という方は是非お手に取ってみてはいかがでしょうか。

(天文学科・4年)

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Stellar structure and evolution / Rudolf Kippenhahn, Alfred Weigert, Achim Weiss

2nd ed./Springer/c2012

【特にこんな人におすすめ!】恒星に興味がある人
【キーワード】天文学・天体物理学・恒星進化・恒星物理

 夜空を賑やかす星々を望遠鏡で見てみると、多種多様な性質が見えます。恒星物理学はその多様な恒星の性質を、物理学をもって明らかにする学問です。当書Kippenhahn(2012)はその恒星物理学のスタンダードとも言える教科書です。理学部が契約しているSpringerの教科書リストに入っているため、SSL-VPN Gatewayサービスを用いてSpringerLinkからダウンロードすることが出来ます。
 筆者は昔から恒星物理学に非常に興味があった為、学部1年から当書には度々お世話になっていました。当時は必要な箇所を部分的に読むことを繰り返していましたが、学部3年の春休みに腰を据えて読む時間が出来、通読出来ました。現在も恒星の研究を行っていますが、当書を読んだ経験が毎日のように活きています。

 この教科書では、恒星物理学が基礎から丁寧に記述されており、初学者でもしっかりと理解できるようになっています。また、上記の物理学的知見から分かる恒星進化や恒星構造といった発展的なトピックについても言及されており、恒星を研究するために必要な知識を体系的に得ることが出来ます。以下、章ごとに紹介していきます。

・第一章~第四章:
 恒星物理学の基礎となる対流や輻射を含めた流体力学を考え、恒星を記述する基礎方程式系を導出しています。また、電離や縮退などと言ったより発展的な物理現象も紹介されています。恒星を考えるためにはこれらをしっかり理解している必要があり、最も実践的な章とも言えます。
・第五章~第八章:
 第五章以降は実際の恒星進化について書かれています。恒星進化の分子雲の形成から主系列星を経て赤色巨星になり、コンパクト天体として終焉を迎えるという各段階について上記の恒星物理学の知見を基に丁寧に記述されています。
・第九章~第十章:
 恒星の脈動や回転といった、これまで考慮してこなかった物理現象について紹介されています。実際に研究されているような専門的なトピックへの橋渡しになっています。

 以上の紹介でわかる通り、恒星について余すことなく書かれています。天文学を志し、恒星周りの物理現象に興味があるという方には必読と言っても過言ではありません。該当する方は、是非お手に取って確かめてみてください。

(追記)
 著者の一人、Rudolf Kippenhahn先生は2020年11月にお亡くなりになりました。この教科書のような後世に語られる素晴らしい教科書を残した下さったことに感謝いたします。ご冥福をお祈りいたします。

(天文学科・4年)

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An Introduction to manifolds / Loring W. Tu

2nd ed./Springer/c2011

【特にこんな人におすすめ!】多様体論の入門をしたい人(前期教養の微分積分、線形代数、ベクトル解析程度の内容を知っている人)
【キーワード】多様体論、微分幾何学

 この本(以下「Tu多様体」と呼びます)は有名な”Bott-Tu”の共著者の一人であるLoring Tuが書いた多様体論の入門的な教科書です。前期教養1年の微積、線形代数程度の知識があれば読み始めることが出来ます。この本ではまずユークリッド空間で多様体論に用いられる諸概念を確認し、その後に多様体を定義して改めて諸概念について議論するスタイルになっており、教養レベルの数学からの接続がスムーズな本であると言えます。
 「Tu多様体」では多様体の定義、接空間の性質、ベクトル束の導入、Lie群、微分形式、積分、de Rahmコホモロジーとその計算方法を扱います。この本を読んだ後にTu ”Differential Geometry”や”Bott-Tu”に進むと良いと思います。(筆者は最近この2冊を読み始めました。)
 洋書ですが外国語話者にもわかりやすい書き味で、英語で書かれた数学書を読み慣れるという意味でもこの本はおすすめです。日本語訳版(7000円程度)が裳華房から出ているので比較しながら読むのも良いと思います。いわゆる「行間」が少ないので自習向きであると言えます。
 私は「Tu多様体」を友人から紹介されて知りました。私が読み始めたのは2年の冬休みからで、同時期に読み始めた友人と自主ゼミ形式で(それぞれの都合もあって)ゆっくりと読み進めて3年の11月にようやく読み終えました。集中すればもっと早く読み進められると思います。
 松本幸夫「多様体の基礎」(東大出版会)に比べると、C級多様体に限定してこそいますが、接バンドルやLie群、de Rahmコホモロジーについて記述がある点が「Tu多様体」の強みです。その他に多様体の教科書として松島与三「多様体入門」(裳華房)が有名ですが、この本は難しい(らしい)上に記述がやや古いので、記述が現代的で行間の少ない「Tu多様体」の方が読みやすいかと思います。

 この「Tu多様体」は自宅からでもSSL-VPN Gatewayサービス経由でSpringerLinkからpdfをダウンロードできます。Tu “Differential Geometry”や”Bott-Tu”も同様にダウンロードできます。
多様体を勉強してみたい人や、「多様体の基礎」を読んだがベクトル束やde Rahmコホモロジーの基本的な部分を勉強したい人はぜひ読んでみてください。

(物理学科・3年)

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印象派物理学入門 : 日常にひそむ美しい法則 / 奥村剛(オクムラ コウ)

日本評論社/2020年

【特にこんな人におすすめ!】身の回りの現象に興味がある人、シンプルなものが好きな人
【キーワード】実験、科学

 自分だけかもしれないが、身の回りの現象を注意深く観察することは大人になるにつれてできなくなってきたように感じる。しかし、曲がりなりにも理学の道を選んだきっかけとしては、少なからず手に取る現象や目に見える自然に美しさを覚えたためだと言うことができる。この本の表紙を見ていると日常で見られる科学現象とさえ感じていなかったようなことが、モネの“日の出”に負けず劣らず「どうだ、美しいだろう」と自信満々に訴えてくるように感じる。多かれ少なかれ、自然がきれいだと思ったことがある人はジャケ買いのような感覚で手にとってしまうような本であると思う。
本文中に難しい式はほとんどないが、現象の背後に潜む法則をできるだけシンプルにかつ視覚的に掴めるような内容となっている。特に、“実験してみよう”のコーナーでは容易に手に入れられるもので行う実験のレシピが書いてある。特殊な作業はいらず、小学生でもできるような工作が多いものの、中身は本格的で大学で行うような実験である。
 我々が日々見たり触れたりしているもの・ことが簡潔に美しい式でフィットされていく、あるいは式で予測されたものにデータがきれいに乗っていく様子は見ていてとても気持ちが良い。少しクセのある文章だが本文中に絵や図解も沢山あったりして面白い本(かつかなり最近出版された本)だったので是非読んでいただきたい。

(地球惑星科学専攻・修士1年)

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統計力学Ⅰ / 田崎晴明(タザキ ハルアキ)

培風館/2008年/新物理学シリーズ 37

【特にこんな人におすすめ!】統計力学をはじめて勉強する人、統計力学をきちんと学び直したい人
【キーワード】統計力学、ミクロカノニカル分布、カノニカル分布、格子振動

物理系の学生の中では非常に有名な統計力学の入門書です。

統計力学を学ぶ人の中にも、その構成から学びたい人もいれば、道具として使えれば良いという人もいると思います。この本では、カノニカル分布の導出のような構成に関わる部分が丁寧に解説されている一方で、カノニカル分布の応用の章のはじめに、カノニカル分布に関する簡潔なまとめの節があり、統計力学を道具として使いたい方は、いきなり応用の部分から読み始めることができるようになっています。はじめから量子力学に基づいた統計力学を扱っていますが、量子力学の準備の章もあり、量子力学は少ししか学んでいないような人にも配慮されています。

また、数式の間のギャップが少なく、計算が追いやすいのもこの本をお勧めするポイントです。練習問題も充実していて、解答もしっかり巻末に載っているので、独学をしたい方にも最適だと思います。

注意点としては、グランドカノニカル分布や理想Bose気体、理想Fermi気体などはこの本の続きの、統計力学Ⅱの方に収録されているので、そちらまで勉強したい方はⅡの方までご参照ください。

私は、学部3年の時にこの本が物理学科開講の統計力学Ⅰの教科書になっていたので、初めて読みました。その時は統計力学自体を勉強するのも初めてだったのですが、この本は非常に読みやすく、理解の助けになりました。

統計力学を学んでみたい、学び直したいという方は、ぜひ手に取ってみてください。

(物理学科・4年)

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群と物理 / 佐藤光(サトウ ヒカル)

丸善出版/2016年

【特にこんな人におすすめ!】物理系の群論初学者、Lie代数初学者、群論の物理への応用を知りたい人
【キーワード】群、Lie代数、量子力学、特殊相対論、素粒子

群やLie代数という用語を学部の物理の授業で聞いたことのある方は多いのではないでしょうか?

一方で、それらに興味はそそられても、数学の本できちんと勉強するというのはなかなか敷居が高いという方も多いと思います。

『群と物理』は、群論の物理への応用を主眼として書かれていて、物理系の方にとって非常に読みやすいものとなっています。量子力学の角運動量演算子のような、学部の授業で学ぶ身近な例もあれば、素粒子の統一理論というような進んだものも応用例として挙げられており、非常に興味をそそられる内容になっています。

前提知識として前期教養レベルの数学(線形代数、微積分)、力学と量子力学の基礎を学んでいれば、読むことができると思います。素粒子などの進んだ部分への応用は、素粒子論を学んでいない場合は少し難しいかもしれませんが、その場合、物理に関する部分は深く考えずに本に書いてあることを認めれば、読むことができると思います。

この本は、理学図書館にも蔵書としてありますが、電子ブック契約もされており、SSL-VPN Gatewayサービスなどを利用すれば、自宅などからでもアクセスすることができます。(2021年2月1日現在)
少しでも興味があればぜひ、中を見てみてください。

(物理学科・4年)

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日本人の骨とルーツ / 埴原和郎(ハニハラ カズロウ)

角川書店/1997年

【特にこんな人におすすめ!】日本の古人類学研究の歴史を幅広く知りたい人
【キーワード】古人類学、縄文人、弥生人、古代人、人骨

 本書は私が生物学科人類学コースの授業の発表で参考にした本です。本書の著者は故埴原和郎・東京大学名誉教授です。埴原氏は自然人類学者で、日本人の「二重構造モデル」を唱えるなど日本の古人類学に多大な貢献をされた方です。本書では、埴原氏自身の研究や他の古人類学の研究を引用しながら、主に日本の古人類学について幅広い視点を紹介されています。
 出版年が1997年と少し古い本なので、現在の研究から分かっている事実と異なる記述があるかもしれないのですが、読み物として読みやすいですし、研究史を知るのに貴重な資料だと思います。比較的最近に出版された「アイヌと縄文人の骨学的研究:骨と語り合った40年」(百々幸雄著、東北大学出版会)と合わせて読むと、日本の古人類学研究の全体像が見えやすくなると思います。
 本書は縄文人、弥生人、アイヌなど日本の人類についての記述が中心となっていますが、ギガントピテクスやネアンデルタール人など世界の人類についての記述もあり、古人類学の概観を俯瞰して読めるのも本書の魅力です。また、日本の古人類学についても、「歯の人類学」や「顔の人類学」、奥州藤原氏のミイラなど日本史との接点など多種多様な側面を知ることができます。
 研究の手法についても、骨を用いた手法や統計分析など学部での研究の参考になる記述がたくさんあります。人類学の研究に興味があるけど、研究のイメージが湧かないという人におすすめの一冊です。

(生物学科・学部4年)

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アイヌと縄文人の骨学的研究 : 骨と語り合った40年 / 百々幸雄(ドド ユキオ)

東北大学出版会/2015年

【特にこんな人におすすめ!】自然人類学、特にヒトの骨の形態に興味がある人
【キーワード】自然人類学、骨学、縄文人、アイヌ

 本書は私の所属している生物学科人類学コースの授業で紹介されたものです。内容は解剖学・形質人類学がご専門の東北大学名誉教授の百々幸雄先生の研究をまとめたものです。縄文人や弥生人など日本の古人類に興味がある人必見の一冊です。
 今から1万5000年前〜3000年前くらいに暮らしていたとされる縄文人。彼らがどんな形態をしていたのか、また、現代人や弥生人と比較した際にどのような違いがあるのか。そういった研究がまとめられています。
 そして、縄文人と共通した身体的特徴を持つとされるアイヌ。アイヌと現代の本土日本人、縄文人にはどんな繋がりがあるのか。それを骨の研究によって解き明かしていきます。
 加えて、骨の研究手法にも着目していただきたいです。形態小変異という骨の「微細な形態異常」の比較を用いているのです。例を挙げると、「眼窩上孔」という眼の上の神経が通る穴の有無などです。そんな小さな違いから人類集団の違いを見分けることができるのかと目から鱗が落ちました。
 本書は骨の研究がメインですが、遺伝学の話も随所に見られます。日本の古人類について視野を広げるために読んでみてはいかかでしょうか。

(生物学科・学部4年)

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海洋生態学 / 日本生態学会編

共立出版/2016年/シリーズ現代の生態学 10

【特にこんな人におすすめ!】海洋生態学に興味がある人
【キーワード】生態学、海洋学

「シリーズ現代の生態学」の中の一冊であり、海洋生態学の入門書といえる。海洋は生命の起源であり、その物理的化学的特性から生態系や種の多様性が陸上とは全く異なっている。しかし調査が困難であることから未だに未解明な部分も多い、フロンティア領域である。本書はそんな海洋の生態学の初学者に向けて、様々なレベルの「多様性」や海洋の様々なエリアにおけるユニークな生態系、さらには生物の食物関係や生活史、個体群などの話を分かりやすく説明してくれる。不慣れな用語も多く出てくるがそれらには解説がついており、読みやすい。教科書のような網羅性もありながらとっつきにくさを感じさせない本である。途中の章は少し専門的な話になるが、最終章では人間活動が様々な海洋生態系に与える影響を説明し、とても考えさせられる内容となっている。 生物の知識があまりなくても読めるため、海と人間の関係について考えたい人にぜひともお勧めしたい本である。

(生物学科・学部4年)

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細胞の分子生物学 / Bruce Alberts [ほか] 著

第6版/ニュートンプレス/2017年

【特にこんな人におすすめ!】生命科学分野を専門とする人
【キーワード】生命科学、細胞生物学、分子生物学

 細胞生物学・分子生物学の基礎的な部分について、豊富なカラーイラストとともに解説されている教科書です。1500ページ超というボリュームで、全て読み切るにはなかなか根性がいりますが、生命科学分野の基礎を網羅したバイブル的存在で、生物系学科の学生は一度必ず腰を据えて取り組むべき一冊です。
 多くの講義の参考書として名前が挙がるほか、生命科学系の大学院入試の対策にも役立ちます。特に、PART IIIのChapter 8, 9では、実験操作や観察・解析の手法について丁寧にまとめられており、研究手法を網羅的に、かつ原理から学ぶのに適しています。また、各論について詳しく学びたいという方も、まずは本書で該当する分野の範囲を読み込み、その後に各論専門の学術書に移ることで、より理解が深まると思います。特に免疫学の範囲は本書のみではやや弱いため、別の参考書で補う必要があると思います。
 なお、本書の重要な点がまとめられた本として『エッセンシャル細胞生物学』(OPACリンク : http://opac.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/opac/opac_link/bibid/2003316664)があります(とはいっても、こちらも800ページ超あります)。初学から細かすぎる参考書では要点が押さえにくいという方は、まず『エッセンシャル細胞生物学』で全体像を把握してから本書に入るのをおすすめします。また、英語原著『Molecular Biology of the Cell』については理学図書館の所蔵だけでなく、電子ブックでも閲覧可能です (原著のOPACリンク : http://opac.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/opac/opac_link/bibid/2003225069, 電子ブックのリンク : https://vs2ga4mq9g.search.serialssolutions.com/?V=1.0&N=100&tab=ALL&L=VS2GA4MQ9G&S=I_M&C=978-0-8153-4432-2) 。

(生物化学科・学部4年)

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科学英語論文の赤ペン添削講座 : はじめてでも書ける! : 実例で身に付く! : アクセプトされる論文を書くコツと鉄則 / 山口雄輝(ヤマグチ ユウキ)

羊土社/2005

【特にこんな人におすすめ!】生命科学分野を専門とする人、英語論文が書けるようになりたい人
【キーワード】論文作法、論文執筆、テクニカルライティング、科学英語

 研究活動を行う上で、科学英語論文を読む力、書く力を身につけることは必須です。一方で、論文の読み方、書き方を学ぶのに特化した必修講義はなく、各自で講座を探したり、研究室配属後に指導教員やメンターの方のアドバイスを受けたりしながら、自力で習得するしかありません。その際、本から得たノウハウをベースにすることができれば効率的です。ここでは論文を「書く」方に焦点を当てさせていただきます。
 論文作法について学べる書籍は、電子ブックも含め学内に多く所蔵されていますが、本書はその中でも生物を専門とする院生・学生向けの一冊となります。生命科学分野に特化して書かれている本のため、他の分野の方はぜひ別の本をお探しください……。
 本書では、まず第1章で日本語での筋道立った文章作成のコツについて、第2章では論文英語における基本的なルールについて、それぞれまとめられています。ここまでで英語論文執筆のためのノウハウを蓄積した上で、第3章では実際にどのように論文を書き進めていくのかを、添削の形をとりながら解説しています。第3章は実践的な内容になるので、いざ論文を書くようになってから読むことで初めて役立つ部分もありますが、インプットに近い第1, 2章は研究室配属前でも読んでおいて損はないと思います。
 本書の特徴の一つに、バイオ系のトピックの文章が例文として豊富に出てくることが挙げられます。実際の論文も素材として使われており、より実用的で参考になるかと思います。また文章が堅すぎないため、テクニカルライティングの本の中でもかなり読みやすくなっています。生物系の専門の方は学年を問わず、ぜひ気軽に手に取ってみてください。

(生物化学科・学部4年)

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誰が科学を殺すのか : 科学技術立国「崩壊」の衝撃 / 毎日新聞「幻の科学技術立国」取材班著

毎日新聞出版/2019年

【特にこんな人におすすめ!】日本の科学の未来、科学政策、科学コミュニケーション、アカデミア運営に興味がある人におすすめです。今後科学に携わる人の待遇について積極的に考えてみたい人にはぜひ読んで頂きたいです。
【キーワード】科学、科学政策、科学コミュニケーション、アカデミア

 日本の科学がどうして衰退しているのか?科学に少しでも触れた者は一度は考えたことがある疑問であると思う。その推移を材料科学の国際競争敗北から近年の政策、大学運営の方法の問題点を時系列で解説しながらわかりやすく紐解く本である。私は日本の科学の衰退と基礎研究力の低下に危機感を感じ、科学コミュニケーションと科学振興に興味を持った。その時に手に取った本である。衰退の経緯を政策と大学の運営、予算配分の外国との差を時系列的に知りたかったのもこの本を読んだ大きな理由の一つである。
 本書ではまず、日本のイノベーション創出力の無さを企業の失敗例を上げて批判している。本来日本の強みであったはずのイノベーション能力は、日本人の気質とも言える慎重さと品質への強いこだわり、新しい価値観への親和性の低さによって、徐々に諸外国に引けを取ることになる。アメリカやカナダ、中国などはベンチャー企業と老舗企業とのタイアップ、そして莫大な資金投入政策によってスピード感のあるイノベーション能力、および商品化能力を獲得していく。一方、日本は新しいものへの資金投入や協力を拒み、自社の品質にこだわりつづけ、結果研究資金、開発資金が無くなる所まで追い込まれる。
 これは現在のアカデミア、国立研究機関にも該当する構造である。本書では「当たり馬券だけ買えるのか」と表現されているが、政府の「選択と集中」政策により過去の実績にこだわった特定の分野に偏った資金投入がなされており、結果として日本は研究力の低下に至った。この政策で果たして日本の研究力低下が防げるのか、本書では強い疑問を投げかけている。アカデミアの研究におけるイノベーション能力もまた、前述の企業の研究開発同様に資金不足により失われていく。
 少しでも研究開発やアカデミアの未来が暗いと感じた人にはぜひ読んで欲しい一冊である。日本の研究開発能力やアカデミア維持能力を保つことを一度考えてみてはいかがだろうか。

(生物科学専攻・博士課程3年)

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生理学テキスト / 大地陸男(オオチ リクオ)

第8版/文光堂/2017年

【特にこんな人におすすめ!】初めて生理学を勉強する人
【キーワード】基礎医学、生理学

 私の所属する生物化学科の講義は、多くがオムニバス形式となっており、それぞれの先生の専門や研究分野を反映しながら授業が展開していくのが特色です。一方で、知識を断片的には蓄積できても、それを体系化していく作業は自力でやらなければいけません。その際、参考書をベースに骨組みを作っていくことになると思いますが、多くの場合、講義で指定される参考書は分厚くて持ち運びしにくく、記述も詳細すぎて要点を押さえにくいというのが正直なところではないでしょうか。
 特に生理学分野は、全体像をつかめないとイメージが湧きにくいです。『ガイトン生理学』や『ギャノング生理学』、日本語原著でも『標準生理学』など様々な参考書があり、いずれも充実した内容となっていますが、やはり詳しすぎて全体像の把握にはあまり向かないです。初めて生理学を学ぶ人にとって、情報量を削いででもまずは要点を押さえられるような一冊を読破することが大切だと思います。
 本書はそのような生理学の全貌を手っ取り早く把握できる一冊となっています。カラーイラストが豊富で文章も多すぎず、数日で通読可能です。全21章構成で、1章につき20ページ程度、多い章でも50ページにも満たないため、各章でポイントを押さえながら読み進められます。著者が1人で訳本でもないため、構成のばらつきや翻訳ゆえのわかりにくさなどもなく、スムーズに読み進められるのもありがたい点です。
 もちろん、専門的なところまで理解するには、この1冊だけでは不足もあります。そこで本格的に学びたい場合は、本書を1周した後、上に挙げたような参考書に取り組むのがいいでしょう。一度本書で骨格ができていれば、細かな記述でも混乱せずに、本書の行間を埋めていくように理解していけると思います。
 医学部の生理学の授業でも、初学者が概要を理解するための一冊として本書の名前が挙がることが多いようです。電子ブックで利用できるため、講義中や通学途中でも閲覧できるという点でもおすすめです。

(生物化学科・学部4年)

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展示開催記録

紹介図書の内、理学図書館で所蔵しているものを、理学図書館(1号館)3階ラウンジにて、2021年5月7日から2021年5月28日まで展示しました。


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(2021年4月14日)

(2023年12月13日更新)

学生スタッフによる図書紹介