東京大学創立130周年記念事業「知のプロムナード」関連展示

鴎外と地図 -東京大学総合図書館所蔵鴎外文庫より-

1.鴎外立案の『東京方眼図』

1-1.東京方眼図 森林太郎立案 複刻 【書庫E22:614:30】

東京 日本近代文学館 ほるぷ(発売) 1971(特選名著複刻全集近代文学館)
春陽堂 明治42年(1909)刊の複製
*【 】内は総合図書館での配架場所と請求記号、以下同じ。
東京方眼図 明治42年(1909)発行の東京市(当時)の地図(複製)である。
一見すると、現代の我々が使っている地図とさほど違いはない。場所の探し方も今の地図と同じである。たとえば、凡例(拡大版参照)のとおり、当時の本郷区にあった「肴町(サカナマチ)」あたりを探したければ、別冊の50音順索引の「サ」のところを引き、縦方向は「ほ」、横方向は「二」に囲まれた四角(=「方眼」)内を見ればよい。
 実は、この縦線と横線からなる「方眼」を用いた検索方法が、当時としては目新しいものであった。(明治29年(1896)の地図である展示資料3-2では、まだ「方眼図」にはなっていないことに注意。)それも「森林太郎立案」というところに注目してみたい。確証はないようであるが、ドイツ留学中(1884~1888)の鴎外が、展示資料1-3のような「方眼図」の便利さを知り、東京の地図への応用を試みたというのが、有力な推定である。鴎外の地図好きはその旧蔵書中での点数の多さでもわかるが、東京の地図を作成するにあたって新しい方式を工夫し、展示資料1-2のように新作の小説の中にも登場させてしまうところに、その関心の深さがうかがわれよう。

1-2.青年 森鴎外著 複刻 【書庫E22:613:12】

東京 日本近代文学館 ほるぷ(発売) 1972(精選名著複刻全集近代文学館)
籾山書店 大正2年(1913)刊の複製
『青春』該当箇所『青春』中表紙『青春』装丁 鴎外は、『東京方眼図』(展示資料1-1)発行の翌年にあたる、明治43年(1910)から『昴』誌上に連載を始めた小説『青年』の中で、主人公の小泉純一にこの「方眼図」を持たせ、本郷から根津へと歩かせている。
 作品中の小道具として使うだけではなく、ある種の広告宣伝効果も併せて狙ったものか。

1-3.Führer durch München und seine Umgebung : mit den vollständigen Katalogen der beiden Pinakotheken, der Glyptothek und der Schack'schen Galerie. 13. vollständig umgearb. Aufl. / des von Morin ; begründeten Handbuchs von Th. Trautwein.
M?nchen : C. Kaiser, 1885. 【書庫 鴎J500:24(鴎外文庫本)】

ミュンヘンとその周辺案内記ミュンヘンとその周辺案内記巻頭地図 19世紀のヨーロッパでは、旅行案内書等に掲載された地図に「方眼」を用いた場所検索機能が付いていることは既に一般的になっていた。鴎外の旧蔵書である本書「ミュンヘンとその周辺案内記」も、巻頭には「方眼」付きのミュンヘン市街地図が掲載されている。
 『東京方眼図』立案のヒントとなった資料の1つであろうか。