物性研究所図書室では、1963年3月まで物性研究所に在籍した牧島象二元教授が研究及び教育のために物性研究所に寄贈された資金を元に、牧島先生記念会を通じて図書の寄贈を受けた。牧島先生は化学・物理・工学など幅広い分野で業績を残した物理化学者であり、 物性研究所時代は光物性部門に所属し紫外線から赤外部までの光波と物質の交渉を研究対象としていた。これらの寄贈図書は牧島先生の名前を冠して「牧島文庫」と呼ばれ、特別なラベルと印が付けられている。
牧島文庫の図書選定においては、若手研究者を主な対象として、物理・化学分野の教科書的な図書を選ぶことに留意したという。また、広範な見識を備えた牧島先生にあやかるように、数学、生物学、工学、哲学、伝記、社会科学に関する図書も寄贈を受けた。こうして選ばれた資料は和書621冊、洋書36冊、計657冊に上った。文庫の中には、ファインマンによる講演集『物理法則はいかにして発見されたか』、新物理学シリーズや山内恭彦著『一般力学』といった教科書、ノーベル物理学賞を受賞した朝永振一郎の著書など、現代でも読み継がれている資料が多数含まれる。また、評価は高いものの日本語版が絶版となってしまったランダウ=リフシッツ理論物理学教程シリーズの『量子力学』『相対論的量子力学』など、現在では入手困難なものもある。これらの資料は、現在も大学院生を中心に多くの利用者に活用されている。
創設から物性研究所図書室は研究用専門書を収集することに注力していたが、1970年に牧島文庫が完成したことで欠けていた基礎的教科書が補われ、蔵書の分野についても多様性を増した。この多様な蔵書構成は現代にも受け継がれ、さらに電子ブックやデータベースなど電子的形態による豊富な資料が加わることで、物性研究所図書室の蔵書は今日の物性科学の研究を支えているのである。