当室からは次の2タイトルを紹介したい。
戦後、原子核研究分野における物理学研究者間の機関誌が3誌刊行された。創刊順に「素粒子論研究」(1948)、「原子核研究」(1953)、「宇宙線研究」(1956)。このうち当室では「宇宙線研究」全29巻と「素粒子論研究」Vol.4-119(一部欠号あり)を所蔵している。なお本誌は1986年で終刊となっているが、他2誌は2024年現在も継続して刊行されている。(「素粒子論研究」はVol.119で冊子版終了後、電子版にて継続中。)
本誌創刊号の編集後記によると、従来宇宙線研究の国内的速報連絡のための印刷物として「一次宇宙線総合研究連絡誌」「BIT通信」があり、「素粒子論研究」への投稿も行われていたが、これらを総合して「『宇宙線研究』を発刊することになった」とある。また趣旨は「国内での宇宙線の共同研究を促進すること」とあり、「研究論文を発表する雑誌」ではなく、「研究速報、資料、通信の他、研究の計画、経過、技術的問題、中間結果、各種討論会の報告、外国からの情報等を載せる」とある。
創刊時を知る研究者によると、本誌は研究者間の情報交流の場としても利用されていたとのこと。海外での研究生活を報告する場であったり、若手研究者でも気軽に論文を載せられる場であったりもしたようだ。また創刊当時の趣旨とは異なるが、海外のジャーナル誌に投稿するのが大変な時代にそれに相当する論文としても扱われていたとのことである。
当時は手書き原稿も多かったようで、特に欧字数式などは判別が難しく、「印刷屋にわかるように」「なるべく丁寧に」「シロウトにも読める」などとあり編集者の苦労が偲ばれる。
宇宙線研究分野では世界で最も歴史と権威のある国際会議の一つ。1947年から2年ごとに開催されている。2023年の第38回(名古屋大学)は現地参加とオンライン参加が同時に行われ、70年以上の歴史を持つ本会議で初のハイブリッド開催となった。
当室では第6回(1959)と第8回(1963)から第33回(2013)までを所蔵している。なお第7回は理学図書館所蔵、第34回以降はオンライン版のみとなった。
会議録は開催後に発行されたものを書店を通じて購入していた。しかし会議によっては参加者のみに配布されることもあり、その場合は参加された研究者に無理を言って寄贈していただいたものもある。
当研究所において保存すべき貴重な資料の一つである。