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図書館・室自慢の1冊

高木八尺文庫

中野 耕太郎

大学院総合文化研究科グローバル地域研究機構
アメリカ太平洋地域研究センター
センター長(教授)


 大学院総合文化研究科グローバル地域研究機構アメリカ太平洋地域研究センター(CPAS)が所蔵する学術資料のなかから、「高木八尺文庫」を紹介します。

高木原稿とメモ(革新主義)
東京大学デジタルアーカイブポータル で見る

 「高木八尺文庫」は東京帝国大学法学部でアメリカ政治史を講じた高木八尺(1889年~1984年)の蔵書と書簡・草稿などからなる、巨大なコレクションです。高木は日本の学術的アメリカ研究の草分け的存在で、アメリカに関する教育研究を目的に1924年に法学部に開講されたヘボン講座(現アメリカ政治外交史講座)で、初代教授を務めました。戦前の高木は、『米国政治史序説』(1931年)をはじめとする先駆的な研究業績をあげたほか、アジア、アメリカ、オーストラリアなどの学識者を中心に1925年に創設された太平洋問題調査会(IPR)に深くコミットし、環太平洋地域の政治・社会情勢を論じて日米関係の展開に重要な役割を果たしています。また、戦後には、日本の研究者が協働してアメリカ研究という新しい学問分野を立ち上げる仕事を主導しました。アメリカ史の基礎資料を日本語で集めた『原典アメリカ史』(全5巻、岩波書店、1950年)は、文字通り日本のアメリカ研究の礎をなす基礎文献で、高木のリーダーシップの下でこそ刊行できたと言われています。アメリカの政治や経済、社会などの研究であっても、歴史の深い理解に基づいていなければならないという日本のアメリカ研究の伝統は、ここに発すると言えます。

高木論文原稿
東京大学デジタルアーカイブポータル で見る

 高木は自分の関係した仕事の資料を網羅的に保存し、自ら作った分類法により整然と管理していたので、東大アメリカ研究資料センター(CPASの前身)に寄贈された「高木八尺文庫」には、20世紀前半からの膨大な資料が体系的に残されています。IPRや東京裁判に関連するものなど、昭和の日米関係を知るうえで貴重な文献・資料が多数含まれる他、来日した著名アメリカ人との交流の様子や、全国あまたの研究者を結集して学界の基礎を築き、アメリカ研究の振興に尽くした晩年の活動も、余すところなくたどることができます。書簡や草稿、メモ類などを中心にすでに342点が東京大学デジタルアーカイブに収録されていますが、デジタル化されていない数多くの資料もCPAS図書室で閲覧可能です。日本からアメリカに関心を寄せるすべての皆さんに、本文庫を通じて、先駆者の多彩な活動に触れていただきたいと思います。

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