柏図書館では、“Philosophical Transactions”の創刊号(縮約版)、第2号をはじめとする最初期の号を所蔵しています (注) 。柏図書館の所蔵する最も古い年代の資料でもあります。
Philosophical Transactionsは1665年に創刊され現在まで続く、世界最古の学術雑誌の一つであり、学内の自然科学系雑誌のバックナンバーを保存する役割を持つ柏図書館を象徴するコレクションです。
学術雑誌は、研究者の学術論文を掲載し、科学知識の流通を支えるメディアですが、その原型の一つがこのPhilosophical Transactionsです。同じ1665年、フランスで創刊された “Journal des sçavans” に触発され、イギリスで生み出されました。王立協会(The Royal Society)の初代事務総長ヘンリー・オルデンバーグ(Henry Oldenburg, c.1619-1677)は数多くの科学者と文通しており、彼がそのネットワークを生かして個人的に発行を始めたのが、この雑誌の起源です。当初は月刊で、価格は1シリングでした。オルデンバーグの死後は彼の後任となった事務総長が引き継いでいきましたが、18世紀中盤には王立協会が編集から発行までの役目を負うようになり、現在へ至ります。
“最古の学術雑誌” と言われることの多い本誌ですが、創刊当初の姿は現代の学術雑誌とは大きく異なります。現代の学術雑誌を特徴づける制度である“査読”(投稿された論文を他の研究者が審査して掲載の可否を判断する、内容の正しさ・質を担保するための制度)はなく、掲載される記事も書評、ニュース、学者の追悼記事、Journal des sçavans の記事の翻訳など雑多なものでした。
その後、長い歴史を経て、学術雑誌は現代の姿へと変化していきます。Philosophical Transactions の創刊号と現代の学術雑誌を読み比べると、科学の長い歴史を垣間見ることができるかもしれません。
創刊号からのバックナンバーは The Royal Society のウェブサイトで公開されています。
(注) 本学理学図書館の貴重書庫には、創刊号からVol.65 (1775年)までがほぼ揃っています。また、駒場図書館にも創刊号などのリプリント版を含んだコレクションがあります。