東京大学附属図書館は、総合図書館などの中心となる館以外にも多くの部局図書館が点在し、それらの部局図書館に蔵書の多くが収蔵されている。各館は独自の展開を遂げてきており、ある館は研究室の中にあって、学生や教員と生活を共にし、またある館は特別な空間にあって、普段とは違う思いの中で勉強や研究に打ち込みたいときに利用される場所となってきた。このように、私が研究対象として見てきた附属図書館は、図書館としての多くの形を過去から現在にわたって示してきた。
特に、それらが各館において蔵書を通して示してきた知の体系は、各部局の学問の歴史の多様さの一端を示していると言える。その時代の動向と結びついたり、歴代の教員が収集にかかわったり、さらには教員の私蔵書が寄贈されているケースもある。それは一つの分かりやすい体系ではないかもしれないが、各部局が紆余曲折を経て、今の部局、そして東京大学を形作ってきた歴史を物理的な場所において示している。
個人的に最も印象に残っている蔵書を例にしてみると、修士論文を執筆する際にお世話になった文学部心理学研究室の図書室のものがあげられる。この図書室の蔵書はもちろん心理学を中心としているのだが、当時私が驚いたのはその分類であった。それは、心理学に特化したユニークなものだった。現代の一般的な図書館で使われている分類とは全く違うので調べてみると、少なくともその原型は昭和初期から使われているものらしく、元になった分類は当時から国際的に有力な学術誌のものであった。この分類、そしてこの分類に基づいた本の排架を通じて、一つの小さな図書室が心理学という学問全体の歴史へとつながっていき、それを学生や教員が実感できる場面が想像され、その後自分が行う研究の構想にもつながるものとなった。
資料の電子化やコロナ禍といった、物理的な場所に蔵書や人が集まることを見直す動きが、現代ではさまざまある。それでも物理的な場所としての図書館が蔵書を中心に体現する知の体系は、今後も研究者たちを惹きつけ続けると信じたい、私がその一人であったように。