この度、附属図書館の蔵書が1000万冊を超えたそうである。まもなく東京大学は創立150周年を迎えるが、この1000万冊は、これまで東京大学で行われてきた研究や教育の営みを反映するものであると考える。それゆえ我々は、膨大な量としてそれに驚くばかりでなく、その質を改めて吟味しなければならないであろう。とはいえ、恐らくどの専門の研究者の眼で見ても、それは誇るべきものであると想像される。
それゆえ、この1000万冊は東京大学がもつ貴重な文化遺産なのであり、現在東京大学に在職するものに課せられた課題あるいは責任も意味する。まず、この貴重な文化遺産を大切に守らねばならない。時間を経るに従い、書物はどんどんと劣化してしまう。それをきちんと管理し、必要に応じて修繕していくことが求められるのである。今後そのニーズは、加速度的に増大することが予想される。また、この文化遺産は、書庫に鎮座しているだけではその価値を発揮できない。利用者が活用していけばいくほど、その価値は高まるのだと思われる。それゆえ、利用者のニーズにより迅速かつ適切に対応するための手立てを講じていく必要がある。むしろこれからは、所蔵する書物の情報をより積極的に提供することを通じて、そうしたニーズを掘り起こすことも求められてくるかもしれない。さらに、この文化遺産の特質を踏まえ、それを発展させていく課題が与えられている。自由にできる経済的資源がますます制限される中でどこに資源を投入していくか、将来世代に対し、我々の見識や力量が問われているように思われる。