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私が選ぶ1/1000万冊

旧外国法文献センターのこと

増井 良啓

図書行政商議会委員、法学部図書・学術情報委員会委員長
大学院法学政治学研究科 教授


 1980年代の半ば、私が駒場から本郷に進学したころ、総合図書館の中に「法学部附属外国法文献センター」があった。このセンターは、1963年に、外国の法令集・判例集など、外国法に関する基礎資料を収集整備して、一般の研究者・実務家の利用に供するために設立されたものである。

 私は、法学部3年生の夏休みにここに通って、フランス法のゼミのためにレポートを書いた。法学部4年生の夏休みにもここで米国の判例をたくさんコピーして、租税法の解釈について小論文を書いた。当時は資料のデジタル化が進んでおらず、紙媒体の資料にアクセスできる外国法文献センターが、原資料を手に取って文献を渉猟できる国内で唯一無二の場所だった。同センターの創立10周年を記念して刊行された田中英夫ほか『外国法の調べ方―法令集・判例集を中心に―』(東京大学出版会1974年)は、外国法を学ぶ場合の必須の手引きだった。

 総合図書館内の外国法文献センターにちょくちょく通っていると、板寺さんという眼鏡の男性がほぼいつもいらっしゃった。板寺さんは、学部生の私があれこれ資料を探していると、「何を調べていますか」と親切に声をかけてくださった。あとで知ったことであるが、板寺一太郎『法学文献の調べ方』(東京大学出版会1978年)の著者であられた。その後、私が研究室に入り、専門の勉強を始めてからも、「あなたの専門だとこんな文献調査法がありますよ」とコピーをくださるなど、板寺さんから親切に教えていただくことがたびたびあった。板寺さんの助言から恩恵を受けた研究者の卵は、私だけではなかったはずである。

 2006年、外国法文献センター所蔵資料は法学部研究室図書室の下に置かれ、名称も「外国法令判例資料室」となった。デジタル化が進む中にあってもなお貴重なその資料は、現在、法学部3号館の4階(図書室L6階)に配置されている。

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