14 天賦人権論のあゆみ


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 維新後の日本に流入したのは、フランス啓蒙思想が説いた自然法の思想であった。これは、教会と王権を否定した後にも確固として存在する「自然」の理法によって、人間社会の構造を説明しなおそうとするもので、フランス革命後ただちに出された『人権宣言』第一条「人間は生まれながらにして自由である」にもっともよく表現されている。人間には自然法的な各種の自由が備わっているとするこの思想は、18世紀後半から19世紀前半にかけての欧米の著作に多かれ少なかれ影響を与え、たとえば上野戦争の際に福沢諭吉が講義を続けたウェーランドの『経済学』にもその影響が見られるという。天賦の人権、ついで国会開設運動と結びついた自由民権という標語は、維新後の日本に流れ込んだ数多くの啓蒙書や教科書を通じて広まったものと思われる。

 さらに見逃せないのは、いわゆる「開化史」( History of Civilization )である。ここでいう「文明」は、常に単数形で、当時の欧米諸国が到達した、いくぶんなりとも自由主義的な立憲政体の社会のことを指す。「開化史」ないし「文明史」とは(――明治初期の翻訳では、開化と文明は同義語である)、人間が未開の状態からいかに文明、すなわち立憲政体の状態に達したかを描く歴史であり、必然的に専制政治との抗争の物語を含むことになる。代表的なものにギゾーの『ヨーロッパ開化史』やバックルの『イギリス開化史』があるが、これらは、プロシア流の国権思想が勢いを増す明治14年以前には、しきりに洋書教科書として用いられた。自由民権思想を側面から支援した著作群であるといえるだろう。



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