東大初期洋書教科書の世界(常設展:2005年4月〜6月)

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  1. 長崎東衙官許
  2. 安政5年(1858)、幕府は長崎奉行に輸入洋書を検査し、改め印を押すことを命じた。 長崎には東西二つの役所があったが、東役所がこの職掌に任じ「長崎東衙官許」という印を用いた。 幕府によって書籍の国内流通が許可されたことを意味する。

    Lighthouses Alan Stevenson, A Rudimentary Treatise on the History, Construction and Illumination of Lighthouses, London, 1850.
    表紙見開きにこの官許の印が見られる。 幕府は各国との通商条約の締結にともない、船舶の航行の安全のために沿岸各地に早急に灯台を整備する責めを負ったわけだが、そのためこうした灯台建設の参考書を輸入したものと思われる。



  3. 外国方備え付けの英語辞書
  4. Worcester J. E. Worcester, Dictionary of the English Language, Boston, 1860
    ウースターは当時のアメリカで、ウエブスターとならんで用いられた大型英語辞書。 表紙見開きには「蕃書調所」の印記とともに、外国奉行の管轄を意味する「外国方」の印記が見られる。 蕃書調所は文久2年(1862)5月に洋書調所と改称しているので、この辞書は刊行直後に蕃書調所によって買い入れられ、その後外国方に移管されて江戸城内に運ばれたものと思われる。 あるいは幕末、外国方に勤めた福地源一郎や福沢諭吉が、英語の翻訳に使用したかもしれない。



  5. 複本番号
  6. 外国人教師の授業に用いられる教科書は数十部の単位で購入され、表紙見開き、遊び紙、あるいは標題ページなどに墨で黒々と「第○○号」という複本番号が書き記された。

    Grundriss der Weltgeschichte J.C. Andra, Grundriss der Weltgeschichte, 1871.
    開成学校で用いられたドイツ語の世界史教科書。
    Notions de chimie Boutet de Monvel, Notions de chimie, Paris, 1867.
    明治3年か4年に横浜居留地の輸入商ハルトリーから購入されたフランス語の化学教科書。
    大学南校で用いられたものと思われる。



  7. 印記が語る東京大学史
  8. 洋書は貴重な財産であり、かならず所蔵印が押された。 学校名はひんぱんに変更されたが、そのつど新しい所蔵印が押され、なかには前の印の上に重ね合わせて押印されたケースもある。

    印記 左上:「大学南校」の印記
    左下:「東京開成所」の印記
    右上:「第一大学区第一番中学図書」の印記
    右下:「南校図書」の印記
    第一大学区開成学校 東京大学法理文参学部 第一大学区開成学校
    ▲「第一大学区開成学校図書」 ▲「東京大学法理文参学部図書」 ▲「大学南校」の印の上に「第一大学区開成学校図書」の印が押されている。



  9. 福沢諭吉による洋書輸入
  10. Mandeville's Fifth Reader for Common Schools and Academies 教科書に貸出用の複本を備えることを思いついたのは、福沢諭吉である。 福沢は慶應三年(1867)、二度目のアメリカ行きに際して、自分の塾のために教科書を買い込んだほか、諸藩からも資金を預かって大量の書籍を買い集めた。 展示の書籍は、 Mandeville's Fifth Reader for Common Schools and Academies, 1867 であるが、表紙見返しに、築地鉄砲州時代からの塾生である小川駒橘の識語がある。 それによれば、「当時英書ノ我国ニ舶来スルモノ乏シク学生等ハ多ク謄写シテ講読」していたので、紀州藩が二百両を福沢に託し、福沢塾に学ぶ紀州藩士の塾生のために書籍を買い集めることを依頼した。 福沢は百数十部の書籍を買って来たが、それによって紀州藩士の塾生の「学業俄然面目ヲ新ニシ」たという。 なお、小川駒橘は湯川秀樹博士の祖父にあたる。 展示の書籍はその後紀州藩の藩校を経て南葵文庫に収められ、関東大震災後、東京大学総合図書館に移された。



  11. 慶應義塾の洋書教科書
  12. 慶應義塾 慶應義塾 明治10年代に慶應義塾で使用されていた洋書教科書。
    「第五拾四号」という複本番号が墨書されている。 「古本売払 慶應義塾」という印と「南葵文庫」の印記は、慶應義塾で不要になったものを南葵文庫が買い求めたことを示している。 これらもまた、関東大震災後、東京大学総合図書館に移された。


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