東京大学図書館の略史


 東京大学が創設されたのは、明治10年(1877)のことであるが、大学の歴史はそれ以前の東京開成学校、東京医学校、あるいは旧幕時代の各学校にまでさかのぼり、所蔵図書もまたそれ以来の歴史を有している。東京大学図書館の今日にいたる歴史は、1923年の関東大震災を境にして、それ以前と以後とに分けて整理することができる。

 大正12年9月1日に関東地方をおそった未曾有の大地震は、東京大学(当時の東京帝国大学)に多大の損害を与えた。中でも最大の被害とされるのが、当時の図書館の全焼であった。幕末明治以来築き上げられてきた蔵書(数十万冊であったという)が一瞬にして灰塵に帰してしまったのである。

 中には、和漢洋にわたる貴重な書物が数多く含まれていた。著名な東洋学者マックス・ミューラー(1823−1900)の蔵書1万冊などもその一つである。

 漢籍についても、失われたものに、江戸時代の八代将軍徳川吉宗が中国から取り寄せた『古今図書集成』9995冊があった。これはもともと幕府の蔵書である紅葉山文庫に収められていたものである。幕府の蔵書は明治に入って明治政府のものとなり、今日の宮内庁書陵部、内閣文庫へと受け継がれているが、この『古今図書集成』は明治天皇が特別に東京大学に下賜し、被害にあってしまったものである。吉宗が購入した『古今図書集成』は初刷りの美しい書物であったという。この他にも、震災で被害にあった漢籍文庫は西村文庫(西村茂樹旧蔵)、星野文庫(星野恒旧蔵)、白山黒水文庫(満鉄旧蔵)などがあった。

 だが、今日でも関東大震災をくぐり抜けてきたいわゆる「焼け残り本」がわずかながら存在している。展示のはじめには、この「焼け残り本」を陳列してある。

 総合図書館の歴史の第二部は、震災の復興から今日にいたるまでである。


東京大学図書館の略史(震災後) へ