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世界天文年2009によせて  展示資料一覧

資料解説
資料解説の一部は伊藤節子氏(元国立天文台)と平岡隆二氏(長崎歴史文化博物館)にご協力いただいた。無記名の解説は中村士による。
所蔵機関名表示のないものは、東京大学総合図書館所蔵である。

47 宇宙之進化
蘆野敬三郎著、岩波書店、1913
<個人蔵>

明治17年(1884)、フランス留学から帰って間もない寺尾寿が、東京大学理学部星学科の初代教授に任命される。この時、初めての星学科学生として入学して来たのが、平山信と蘆野敬三郎だった。平山信は後に第2代の東京天文台長になった。一方、蘆野は海軍の大学校に就職したため、日本天文学会の関係では余り名前を見ることはない。

なお、明治36年(1903)に「厳頭之感」を残して日光華厳の滝で投身自殺し、夏目漱石ら当時の知識人に大きな影響を与えた一高生、藤村操は自分の甥であると、蘆野は書いている。

明治開国後、天文学の一般書は外国の著書の翻訳か、天文学を概説した初等的な本がほとんどだった。そうした中にあって、本書はかなり本格的な近代天文学の内容を紹介した初期の著作の1つである。蘆野が米国に留学した折、著名な天文学者へールから彼の著書を見せられ、その構成を参考にした著書を著わす了解を得て書かれたのが本書である。従って、基本的な章立ては当時最新の天文学の動向を伝えている。少し遅れて、京都大学の新城新蔵も東京天文台の一戸直蔵も類似の高級な天文学啓蒙書を出版した。

表題の上部に、「賜天覧」とある。構成は、第1章 吾人の住居、第2章 隣の家、第3章 吾等が君主、第4章 恒星界、第5章 天体力学、 第6章 天界の塵、第7章 新天文学、第8章 分光術の成績、 第9章、太陽系創造説、第10章 星辰進化説である。第5章ではかなり面倒な式も臆せず使用して説明していて、この時代の科学雑誌にも同じような傾向が見られ、近代科学に対する明治期の人々の意気込みが感じられる。


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