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世界天文年2009によせて  展示資料一覧

資料解説
資料解説の一部は伊藤節子氏(元国立天文台)と平岡隆二氏(長崎歴史文化博物館)にご協力いただいた。無記名の解説は中村士による。
所蔵機関名表示のないものは、東京大学総合図書館所蔵である。

36 天文学者Tisserandの講義ノート:Leçons de Méchanique Rationnelle “理論力学講義” 1879-1880
古市公威による筆記、3冊
<東京大学工学・情報理工学図書館 工1号館図書室A(社会基盤学)所蔵>

古市公威 (1854-1943)は姫路藩藩士(江戸生)、東京開成学校の出身。明治8年(1875)7月に文部省の公費留学生として渡仏した。留学先はエコール・サントラルで、明治12年(1879)に土木工学で工学士の学位を得た。同年、パリ大学(ソルボンヌ)理学部に入学、翌年の明治13年10月に帰朝した。帰国後は内務省土木局に入り、後には初代工科大学長を務め、近代土木工学の権威とされる。

このノートは、古市が寺尾寿と一緒に天文学者ティスラン(F. Tisserand)の講義を受講した時の記録である。ティスランはフランスの著名な天文学者で、明治7年(1874)には金星の太陽面通過の観測のため来日している。後にパリ天文台の台長になった。著書の「天体力学教程」4巻は古典的名著である。ティスランのこの講義は、1879年9月12日の第1講から始まり、1880年6月18日の第56講に至るまで毎週2回、驚くべき規則性を持って行なわれた。講義する方もそれを受講した古市、寺尾らも相当に大変だったことだろう。講義内容は、終りの数回で解析力学による運動方程式の基礎を扱っていて、専門的な天体力学に入る前段階として理論力学をかなり徹底的に教えたことが分かる。ティスランの講義が当時の既刊書に基づいたのか、彼のオリジナルかは未調査であるが、フランスの理論力学、天体力学の伝統を彷彿させる内容である。ノートは筆跡から見て清書されたものではなさそうだが、かなり整然としている。ティスランは整った文章に近い講義を黒板に延々と書きつづったのだろうか。寺尾寿による在仏当時の資料は、太平洋戦争の戦災で焼失している。しかし恐らく、古市のノートほどキチンとした物ではなかったと想像される。なぜなら、古市は当時、4年間フランスにいて既に学位を取得していたのに対して、寺尾は1879年5月にパリにやって来たばかりだったからである。


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