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世界天文年2009によせて  展示資料一覧

資料解説
資料解説の一部は伊藤節子氏(元国立天文台)と平岡隆二氏(長崎歴史文化博物館)にご協力いただいた。無記名の解説は中村士による。
所蔵機関名表示のないものは、東京大学総合図書館所蔵である。

20 測地原稿図
伊能忠敬、92枚、年記なし

この時代の典型的な地図作りは、2地点を結ぶ線分の距離と基準方向(磁北)からのこの線分の方位角を測定し(「導線法」)、このデータを紙の上に描き次々に繋いでゆく方法をとった。さらに、大きな地域の場合には、遠方の高山などの方位角も測定し地図の歪みを補正した(「交会法」)。その最初の段階として、多分1日分の測定を紙の上に記した地図の下図が本史料である。分度規と定規で下図を作る時、補助線を墨で描かないために、「けん界」と呼ばれた裁縫のヘラのような道具を用いて、紙に細い圧痕線をつけた。また、小さな地域の下図を組合わせて大きな1枚の地図に仕立てる際には、伊能忠敬のグループや麻田派天文学者の人々は、下図の上から各点を針で突いて、下の大図に写取った。また、複数枚の地図を製作する場合にも針を用いて複写した。従って、伊能図では多くの場合、下図には針穴が残っているのが普通である。本史料も拡大するとどれにも多数の針穴が見られる。こうした根気のいる作業の集大成として、文政4年(1821)に『大日本沿海輿地全図』が完成したのである。他方、伊能忠敬と同時代に讃岐の測量をして讃岐全図を作成した高松藩の測量家久米通賢の場合には針は使用しなかったらしく、代わりに夥しい数のけん界による圧痕線が下図に残されていた。ちなみに、久米の師は間重富だった。

本下図は九州地方と中国筋が最も多いが、中仙道、信州、甲州、武州、飛騨なども一部混じっている。地域ごとに下図が整理されないままに散逸した伊能史料の一部ではないだろうか。

【参考】『伊能大図総覧』(河出書房新社,2006)

測地原稿図
測地原稿図
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