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世界天文年2009によせて  展示資料一覧

資料解説
資料解説の一部は伊藤節子氏(元国立天文台)と平岡隆二氏(長崎歴史文化博物館)にご協力いただいた。無記名の解説は中村士による。
所蔵機関名表示のないものは、東京大学総合図書館所蔵である。

19 霊憲候簿
渋川景佑編、天保9年(1838)-弘化4年(1847)、写本99冊
<国立天文台所蔵>

天文方渋川景佑は、天保13年(1842)に天保暦を完成させた。この暦は西洋天文学の成果を取入れた最後の太陰太陽暦(旧暦)だった。この天保改暦の前年に景佑は、幕府から飯田町九段坂に新たに天文台を作り、観測を開始すべしとの命を受けた。これが九段坂測量所である。新天文台は天保13年に火災に会ったり、景佑自身が天保の改暦に伴う土御門家との交渉で京都に出張していたりで、景佑が不在の時に九段坂に引越すという非常に慌しい発足だった。

この地で、天保9年(1838)1月から安政元年(1854)末まで続けられた天文観測の記録が「霊憲候簿」である。従来のように改暦の前後に行なう暦法の可否の確認観測ではなく、組織的な長期観測プロジェクトとしては我が国最初の試みだった。1冊が1ケ月分の観測に対応し、冒頭部分に観測担当者(手付・手伝い)と担当した天文儀器名が記される。全期間の約15年間で職員の出入りはあるが、合計約20名がこの定常観測に従事した。太陽、月、五星、恒星、日月食の外に、星食(エンペイ)観測も含む。温度計、気圧計の気象データも記録されているが、これは天体位置の大気差補正に使用することを意図したものである。こうした長期的な定常観測は、それを用いて天文定数などを改訂するのが本来の目的であるが、結局何ら利用されることなく明治維新を迎えることになった。清書献上本が内閣文庫(201冊)に、天文方控本の前半部分のみ(99冊)が国立天文台に所蔵されている。


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