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世界天文年2009によせて  展示資料一覧

資料解説
資料解説の一部は伊藤節子氏(元国立天文台)と平岡隆二氏(長崎歴史文化博物館)にご協力いただいた。無記名の解説は中村士による。
所蔵機関名表示のないものは、東京大学総合図書館所蔵である。

18 ラランデ暦書訳述
間重富、写本6冊
<国立天文台所蔵>

寛政9年(1797)に寛政の改暦を成し遂げて暫く後の享和3年(1803)、天文方高橋至時は若年寄から仏人ラランデが著した天文学書のオランダ語訳本、通称『ラランデ天文書』を見せられる。至時はごく初歩のオランダ語の知識しかなかったが、一覧してその高度で精緻な内容に衝撃を受ける。その結果、全力をあげて解読に努め、半年後過労で死亡するまで、11冊の『ラランデ暦書管見』(現存8冊)を残した。自分が興味のある章、改暦に関係する部分を至時の解釈や疑問点と共に抄訳している。一部、光行差(地球の公転運動と光速が有限であるために星のみかけの方向が僅かにずれる現象)や章動(歳差の周期運動成分)はその概念自体が理解できなかった。しかし、他の大部分は基本的に正しく内容を把握していて、辞書もオランダ語文法の知識もなしでこれだけの成果を達成した至時の有能さに驚かされる。

至時による自筆本は文化10年の火災で失われ、本史料以外に、間重富が筆写したもの(大阪の羽間文庫)と伊能忠敬が整理した史料(伊能忠敬記念館)が現存するのみである。本写本は、間重富が筆写したものの異本であろう。(中村・伊藤)

【参考】日本思想体系『洋学』下(岩波書店,1972)に「ラランデ暦書管見」の一部翻刻(中山茂)がある。


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