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世界天文年2009によせて  展示資料一覧

資料解説
資料解説の一部は伊藤節子氏(元国立天文台)と平岡隆二氏(長崎歴史文化博物館)にご協力いただいた。無記名の解説は中村士による。
所蔵機関名表示のないものは、東京大学総合図書館所蔵である。

17 ラランデ天文書
Astronomia of Sterrekunde
J.J.F. Lalande、5冊の内、第1冊が欠
<国立天文台所蔵>

原著者のラランデ(1732-1807)は、パリ天文台の天文学者で、5万星を含むラランデ星表を編纂し、啓蒙書から専門書まで多くの天文学の著作を残し、フランス経度局局長、パリ天文台台長(1795-1800)を務めた。原著Astronomieは、それまでの天文学の専門書とは異なり、当時最新の天文データに基づき、天文学者が使いやすい公式や図表を多く載せていたため好評で、1764年、1771年、1792年の3版を重ねた。標記の本は原著第2版のオランダ語訳である。この翻訳事業は、オランダ海軍士官学校校長で航海天文学の分野ではヨーロッパで有名であったC.ダウエスが企画したものだった。ちなみにダウエスは、本木良永(『象限儀用法』)や志筑忠雄(『八円儀』)が翻訳した「オクタント用法」の原著者でもある。

パリ天文台のM. グロ女史の調査では、ラランデ天文書はヨーロッパ中の天文学者から歓迎され、日本語訳、オランダ語訳だけでなく、ドイツ語、ロシア語、イタリア語、トルコ語、アラビア語にまで翻訳されたと言う。なお、フランス語原著の正しいタイトルはAstronomieであるが、従来しばしばTraite d'Astronomieとして引用されてきた。その理由は複雑で、ラランデの同僚だった著名な天文学者ドランブル(J.B.J. Delambre) による天文学史の著書の中で校正者の不注意から誤まって引用されたこと、及び当時は本のタイトルを厳密に記録・引用する習慣が余りなかったことによるらしい。グロ女史によると、ラランデ暦書の出版後、わずか4-5年後に記録されたフランス国立公文書館の出版目録でもTraite d'Astronomieになっているし、ラランデ自身も後の著書で、このタイトルで引用している例がある由である。


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