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世界天文年2009によせて  展示資料一覧

資料解説
資料解説の一部は伊藤節子氏(元国立天文台)と平岡隆二氏(長崎歴史文化博物館)にご協力いただいた。無記名の解説は中村士による。
所蔵機関名表示のないものは、東京大学総合図書館所蔵である。

10 有徳院様暦数御尋之御筆
徳川吉宗自筆、「一橋徳川家文書」
<茨城県立歴史館所蔵>

吉宗は、中国の時憲暦が西洋天文学の成果をもとにイエズス会宣教師によって作成された暦で、伝統的な中国暦法より優れていることを知り、我が国でも西洋天文学によって改暦を行なうことに情熱を燃やした。そして、和算家の建部賢弘、中根元圭、長崎天文家の西川如見、西川正休らに対して、天文暦学について度々質問をし意見を聞いた。この史料も、そうした下問状の一つである。

本タイトルは包紙に記された文言である。包紙がこの下問状と同時代の物らしいこと、下問状を認めた和紙の縦の寸法が30cmもあり将軍の用紙に相応しいこと、本史料が伝わった一橋家は吉宗が創始した三卿の一つであること、暦学に関するこのような内容は吉宗以外に書ける人物がいたとは思えないこと、吉宗は多くの指示を自ら行ったこと、などからみて、本状が吉宗の真筆であることを疑う理由はない。吉宗は、内容にかなり踏み込んだ下問状、質問書を多くの分野の専門家に出していたことが『徳川実記』、『兼山秘策』などに記されている。本状は、吉宗のそうした行状を裏づける貴重な史料である。(中村・伊藤)

[原文](部分)
 一 貞享暦ハ授時暦ニ少々了簡を加へ組立候ものの様ニ兼而承及候。右両暦ノ■同
承度事。口上ニ而ワかれ難ク候ハハ、書付見申度事。
 一 此間之書付ニ惣而蝕之義ハ實測と算法と度々逢不申もの之由、然は暦法之善悪
何を以而極申候哉。
 一 授時暦之組立ハ書物も渡り此方よりも相知有之候事ニ候哉。

[口語訳]
 一 貞享暦は授時暦に少し工夫を加へて作ったものと以前から聞き及んでいる。この両方の暦の違いと同じ点を承りたいこと。口頭での説明が難しければ、書いた物を見たいこと。
 一 この間の書付に、日蝕のことは一般に実測と推算と度々一致しない場合があることの由だが、それならば暦法の善し悪しは何をもって決めるのか。
 一 授時暦の内容は、中国から書物も輸入されているから、我が国でも知られたことなのだろうか。


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