資料解説
資料解説の一部は伊藤節子氏(元国立天文台)と平岡隆二氏(長崎歴史文化博物館)にご協力いただいた。無記名の解説は中村士による。
所蔵機関名表示のないものは、東京大学総合図書館所蔵である。
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寛永年間の鎖国に伴うキリスト教の禁教・取締り政策の一環として、長崎聖堂に書物改役が置かれた。中国から輸入されるキリスト教関係書の検閲をするのが役目である。中国のイエズス会士マテオ・リッチ(利瑪竇)らは、布教の手段として天文、数学、地理、測量書をキリスト教の教義書と共に叢書として刊行した。その代表は『天学初函』である。そのため、重要な西洋科学書が輸入禁止される結果になった。
この禁書令には、キリスト教に関係しない一般の科学書は輸入を許可する旨の但し書きがあり、またオランダ語などの洋書も輸入禁止の対象にはなっていない。後者については、長崎通詞でもこの頃はオランダ書を読める者がほとんどいなかったためであろう。禁書書目には後の学者も歴史的関心があり、例えば三浦梅園は『帰山録』の中で34種の禁書を列挙しているし、書物奉行であった近藤正斎も『好書故事』の中で吉宗の禁書緩和と禁書について述べている。
展示の『禁書目録』はその序文によれば、書肆が本を出版したり売買する際、過去の禁書は多数にのぼるので、誤まって売り買いする場合も起こる。その防止策として、明和年間までの禁書目録の小冊子を出版するとある。これから分かるように、キリスト教教義書と宣教師による西洋科学技術書(38種を列挙)はもちろん含まれているが、和書でも秘録浮説等の本、好色本も当然禁書になっている。また、幕府の政治向きを扱った本、豊臣本、忠臣蔵関係、お家騒動の本なども載っている。他に、絶版書、私家版のリストも付記される。
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