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世界天文年2009によせて  展示資料一覧

資料解説
資料解説の一部は伊藤節子氏(元国立天文台)と平岡隆二氏(長崎歴史文化博物館)にご協力いただいた。無記名の解説は中村士による。
所蔵機関名表示のないものは、東京大学総合図書館所蔵である。

5 天文成象
保井(渋川)昔尹(ひさただ)、元禄12年(1699)、刊本・巻子1軸
<国立天文台所蔵>

渋川春海(1639-1715)が嗣子昔尹の名で刊行した星図。春海は寛文10年(1670)に『天象列次之図』を、延宝5年(1677)に『天文分野之図』を、朝鮮の『天象列次分野之図』(1395)を参考にして刊行した。前者は日本で刊行された最初の星図である。貞享元年(1684)に貞享の改暦を達成した後しばらくして、春海は再び星図へ関心を向けた。改良した渾天儀と呼ぶ観測装置を用いて、約4年間、全天の恒星の位置観測を行った。その結果を『貞享星座』1巻にまとめた。『貞享星座』は残念ながら失われて現存しないが、その内容を星図に仕立てた物がこの『天文成象』である。北極を中心とした円星図と、赤道線を中央に置いたメルカトール図法のような長方形の星図から成る。中国の星座は西洋の星座に比較して数が数倍多く、そのため個々の星座を構成する星の数は一般に少ない。中国の古代星座は石申、甘徳、巫咸の3種があり(三家星座という)、星図上では伝統的に色を変えて区別した。春海は三家星図に属さない星の位置も多数観測して、61星座308星を新たに設けて描いた結果、『天文成象』には合計361星座1773星が図示されている。文化年間以降になると、中国のヨーロッパ宣教師が西洋天文学に基づいた精密な星図を製作してそれが日本にも伝わったため、我が国の天文学者の関心もそちらに移る。しかし一般には、春海による『天文成象』図を元にした星図も幕末まで繰り返し製作・刊行された。


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