東京大学附属図書館所蔵資料展

地図に見る江戸八百八町


      所蔵古地図について        


 今回の展示では,東京大学の総合図書館、法学部、史料編さん所が所蔵する地図資料か
ら江戸図を出展した。

総合図書館
 総合図書館が所蔵する地図資料は、震災後寄贈された二つの文庫、「南葵文庫」収蔵
「坂田文庫」及び「鴎外文庫」によっている。東京大学図書館は、大正12年9月(192
3)の関東大震災により焼失し、数十万冊にのぼる蔵書のほとんど全てが灰塵に帰した。
この被災に対して国際連盟による東京帝国大学図書館復興援助決議をはじめとして国内外
からの多くの貴重な図書が寄贈された。
 「南葵文庫(なんきぶんこ)」は、侯爵徳川頼倫氏が紀州徳川家に伝わる蔵書を基に設
置した私立図書館であったが、本学の被災に際し大正14年(1925)に文庫の全蔵書
9万6千冊を寄贈された。「南葵文庫」には、小中村清矩、依田学海、坂田諸遠(さかた
もろとお)等の旧蔵書も収蔵されていた。坂田諸遠(1810〜1898)は明治政府に
よる『続通信全覧』(江戸幕府外交文書集)編纂に携わった一人である。その旧蔵書は1
万5千冊に及び、多くの日本各地の古地図をも含んでおり、坂田自身による写本(「元亀
天正年中江戸辺之図」)もある。南葵文庫収蔵の古地図は1,600点であるが、その多
くは坂田文庫に由来するものである。
 鴎外文庫は、森鴎外(1862〜1922)の旧蔵書が大正15年(1926)に遺族
から寄贈されたものであり、和漢書15,924冊、洋書2,681冊からなる。その分
野は総記、文学、宗教、医学と広く、鴎外自筆の書き入れ本も多い。鴎外文庫には、江戸
古地図180点が収められている。鴎外は地図についても関心が深く、座標によって地名
を検索することのできる地図『森林太郎立案 東京方眼図』が春陽堂から出版されている
。今回出展の「長禄江戸図」は、鴎外の模写になるものである。鴎外自ら題簽を記してい
る資料も多い。

法   学  部
 法学部では、法制史資料室に、江戸時代の地図および関連資料約200点(その四分の
一が江戸図関係)が所蔵されている。これらの大半は、関東大震災以降に受け入れられた
ものである。同室の主な収集史料は、近世の幕府や諸藩の法令・裁判関係記録、地方史料
の原本・写本・版本であるが、地図類は、近世の日本法制史さらに、広く歴史研究の際の
参考史料として利用されている。一方、法学部研究室書庫にも復刻版を主とした若干の地
図類が所蔵されている。
同書庫には、法律学、政治学だけでなく、歴史、哲学等人文・社会科学の図書・資料50
万冊余が所蔵されている。日本近世に関する資料もこれらの一部である。また、近代日本
法政史料センターの明治新聞雑誌文庫にも、若干の地図が所蔵されている。

史料編さん所
 昭和25年4月(1950)、史料編さん所は東京大学附置研究所に改組された。設置
目的は「本邦に関する史料の研究・編纂ならびに出版」である。しかしその歴史は遠く、
明治2年3月(1869)の史料編輯国史校正局にはじまる。この間一貫して、国内外の
史料の蒐集を行ってきている。その方法は、史料の採訪と複成によるもののほか、他の組
織の吸収合併による引継、購入・寄贈という形で補完されてきた。地図資料においても同
様である。
 現在所蔵する一枚物地図類は、2,000枚余にのぼる。その他に、刊行された地図集
や超大型の掛け図式のもの、史料集に附図として添付されたもの等がある。これらの資料
がどのような経緯で所蔵となったのかは、史料編さん所の沿革と関係が深い。
(1) 明治期に内務省地誌課から引き継がれた資料
(2) 修史局より帝国大学に事業が移った時(明治21年10月)大学に引き継がれた紅葉山文
 庫旧蔵・昌平坂学問所旧蔵等の資料
(3) 明治期に東京府より引き継がれた資料
(4) 外務省(明治39年9月外務省から編纂事業を移管)から引き継がれた資料
(5) 文部省維新史料編纂会事務局(昭和24年3月吸収合併)から引き継がれた資料
(6) 編纂の資料として新たに購入・寄贈された資料
 この他に絵図史料として、史料編さん所で模写した史料(中世荘園・近世城郭図等)が
ある。


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