[解説パネルと展示図書から]

モース文庫について

 当館は、エドワード・S・モース(Edward Sylvester Morse、1838-1925年)から送られた図書資料約3,000冊を所蔵している。

 モースは少年のころから貝のコレクションを始め、21歳のときハーバード大学のルイ・アガシー教授(Jean Louis Rodolphe Agassiz,1807-1873)の 学生助手となり、働きながら動物学を学んだ。この年(1859年)、ダーウィンの「種の起源」(The origin of species by means of natural selection)が 出版され、ダーウィンとも書簡により研究成果の連絡を取り合っている。 日本には、貝の一種と考えられていた「腕足類」が多いということを聞き来日したが 、横浜から東京への移動の途中で車中から「大森貝塚」を発見し、また、東京大学の外山正一教授から動物学教授の就任を依頼され、 日本における動物学、人類学、考古学の基礎を築いている。日本での総滞在期間は3年弱であるが、 その間北海道・東北でアイヌ民族の民具の蒐集、九州・関西など日本各地に採集旅行をしている。 また、日本陶器にも興味をもち4,600余点を収集し、それらは現在ボストン美術館に収蔵されている。

 多岐にわたる活躍をしたモースは、終生日本に関心を抱き続け、1923年(大正12年)9月1日の関東大震災で東京帝国大学図書館の壊滅を知り、彼の遺言を「科学関係の全蔵書を東京帝国大学図書館に寄贈する」ように書きかえた。没後、遺言どおり送られ、1932年(昭和7年)に受入処理された蔵書がモース文庫である。

 モース文庫は種々の資料によると、12,000冊とあるが、現在確認できる目録によると図書1,496冊、雑誌1,840冊の3,336冊である。これらの資料にはモースが小さな壷のようなものを調べている写真を付した蔵書票が貼付されている。また、表題紙の右上あたりにモース自身のサインと思われる書き込みもみられる。

 モース文庫の内容は総記、哲学、宗教、言語、文学、芸術、歴史、地理、教育、法律、政治、経済、自然科学、工学、医学、農学というようにあらゆる分野に及んでいる。この中でも特に自然科学分野は図書の半数を占め、中でも貝を含む動物学及び進化論に関わる分野、地質学が目に付く。ついで、歴史書であるが、その三割が考古学である。また、各国の歴史の中でも日本・韓国・中国関係がアメリカのより多数を占めている。さらに美術・陶器を中心とする芸術部門、英米文学についで日本文学が多数を占めている文学部門、アメリカより日本・韓国関係の多い地理学部門となる。また、陶器関連のみならずさまざまな日本関連の展示目録を数多く蒐集している。

 モースはダーウィンだけでなく多くの研究者と関係があったようで、著者からの献辞の書かれた図書も少なくない。東京大学の前身である大学南校(のち開成学校)で教えたこともあるグリフィス(Griffis)、1882年モースに同道され来日したビゲロー(Bigelow)、日本人では米国で活躍した歴史学者、朝河貫一などがみられる。


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