東大新図書館トークイベント5 南原繁と「学問」の未来(渡辺浩名誉教授、鶴見太郎氏、福岡万里子氏)
2013年11月8日(金)17:00-19:00 東京大学総合図書館 1F 洋雑誌閲覧室
戦後の再出発の時代に第15代東大総長を務めた南原繁が歴史、思想史、教育史に残したものとは何か。渡辺浩名誉教授をお迎えして、南原繁の業績や思想を振り返るとともに、「南原繁記念出版賞」を受賞した若き2人の研究者(鶴見太郎氏、福岡万里子氏)による発表も同時開催しました。また、関連展示「時を超えて響きあう~南原繁と新図書館計画~」では、南原の構想から東大新図書館計画と響きあうものを紹介し、その改革の深さと広がりを感じていただきました。
Speakers
*プロフィールはイベント当時のものです。
渡辺 浩 Hiroshi Watanabe
東京大学助教授、同教授(法学部・大学院法学政治学研究科)を経て、現在、法政大学法学部教授・東京大学名誉教授。日本政治思想史(「日本人」が政治をめぐって思い、考えてきたことの歴史)専攻。著書は、『日本政治思想史17-19世紀』『東アジアの王権と思想』『近世日本社会と宋学』など。2011年より、東京大学出版会理事長。鶴見 太郎 Taro Tsurumi
歴史社会学、ロシア・ユダヤ史、パレスチナ問題を専攻。2010年東京大学大学院総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程修了。博士(学術)。現在、日本学術振興会海外特別研究員/ニューヨーク大学ヘブライ・ユダヤ学科客員研究員。主著に『ロシア・シオニズムの想像力―ユダヤ人・帝国・パレスチナ』(東京大学出版会、2012年)など。福岡 万里子 Mariko Fukuoka
幕末外交史、日独・日蘭交渉史、東アジア国際関係史を専攻。2011年東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。博士(学術)。現在、日本学術振興会特別研究員PD(東京大学史料編纂所)。著書に『プロイセン東アジア遠征と幕末外交』(東京大学出版会、2013年)がある。
イベントレポート
特別講演(渡辺浩名誉教授)~南原繁の業績と思想~
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南原繁記念賞受賞者講演に先立ち、渡辺名誉教授から、南原繁が創立した東京大学出版会の歴史と、南原の思想について語っていただきました。南原は、東大総長就任以来、時代の方向性を示唆し、当時の多くの国民に影響を与えながらも、その独自性により、彼の政治哲学は近年になるまで研究されてきませんでした。それは、おそらくその独自性によります。南原は客観的かつ普遍的な理性を尊重し、「真」「善」「美」という普遍的に妥当する価値があるとしていました。また、政治はやはり絶対的な価値である「正義」を目指すものだと考えました。そのため、個人的道徳観に反しても個人は「正義」の実現を目指す国家に服従する義務があると考えました。南原の思想は現在の常識的枠組みでは矛盾して見えますが、それなりに一貫しています。その思想には、野蛮な意見が勢いを増す現代に反省を促し、自明とされる前提さえ根底から考え直すよう迫ってくるものがあります。講演では、実際に南原に会われた時のエピソードなども交えてお話いただき、南原の深い信念が感じられました。
南原繁記念賞受賞者講演(鶴見太郎氏)~帝国と二重ナショナリズム―革命に反対したロシア・ユダヤ人~
鶴見太郎氏の講演では、白軍に加わったシオニストという特異な人物であるD・パスマニクを通し、シオニストがなぜ国家を重要視するようになったのか、その経緯について論じていただきました。ロシアで起こったシオニズムは、ユダヤ人であることが不利とならない民族的拠点をパレスチナにつくることにより当時ロシア帝国内でマイノリティであったユダヤ人の地位向上を求める運動という側面がありましたが、やがてシオニストはユダヤ人国家建設を最重視するようになります。しかし、パスマニクはあくまでもロシアに居住を続けるロシア・ユダヤ人の将来を見据えロシアを擁護し、ユダヤ・ナショナリストとしてマイノリティを保護するための国家としてロシアを考えていました。パスマニクの思想は結果としては失敗に終わりましたが、現代においてマイノリティとナショナリズムを考えるヒントを与えてくれるものです。受賞作品が描かれた時代の後のシオニズムについて考察する講演に会場は聞き入っていました。
南原繁記念賞受賞者講演(福岡万里子氏)~史料に即して~
福岡万里子氏には、受賞論文『プロイセン東アジア遠征と幕末外交』にて扱われた話題の一端をご紹介いただき、史料を深く理解しようとすることで研究テーマが広がっていった経緯を、東大史料編纂所所蔵のプロイセン使節団を率いたオイレンブルク伯爵の書簡を取り上げてお話しいただきました。オイレンブルク伯爵がつづったその書簡には、徳川政権の対外政策の推移やドイツ諸国民のアジアにおける貿易活動の変遷、他の西洋諸国の貿易活動や東アジア政策との間の相互関係など、多方面の歴史的コンテクストが含まれていることをご説明いただきました。丁寧に史料を読み解くことで、受賞作品はプロイセン東アジア遠征の日本訪問から幕末日本の外交史、さらに日本と東アジアを取り巻いた国際関係史を新たな角度から考察するグローバル・ヒストリー研究へと発展し、歴史研究は目前の史料と徹底的に向き合うという地道な作業の積み重ねを通じて生まれるというお話を語っていただきました。
イベント概要
概要 |
南原繁・第15代総長(総長在職期間:昭和20年12月~昭和26年12月)は優れた学問的業績を残したのみならず、東大の歴史、さらには戦後の思想史・教育史における大きな存在です。また、東京大学出版会を創設し、総合図書館の歴史に関係のある人物でもあります。その思想・人物・業績を振り返ることを通して、「南原繁」の記憶をよみがえらせることにより、今回の講演会は、東大の歴史についての理解を深める機会となるでしょう。また後半には、東京大学南原繁記念出版賞(主催:財団法人東京大学出版会)第1回、第2回の受賞者お二人による記念講演を行います。新進気鋭の若手の研究者による講演から、可能性豊かな「学問の未来」を予感していただけるものと思います。 現在の総合図書館洋雑誌閲覧室はかつて「記念室」と称され、館内でも特別な空間として位置づけられていました。今回の講演会は、この場所のメモリアルな意義を再生させることを企図するものでもあります。東大の歴史の中で培われてきた学問の伝統が未来に受け継がれていく場として、総合図書館の空間が本来備えている象徴性を再発見する機会ともなれば幸いです。 *ご来場の方先着50名様に、東京大学出版会の提供により以下の書籍のプレゼントを行いました。 |
開催日時 | 2013年11月8日(土) 17:00~19:00 |
講師 | ・渡辺 浩 (東京大学出版会理事長・東京大学名誉教授・法政大学法学部教授) ・鶴見 太郎 (日本学術振興会海外特別研究員(ニューヨーク大学(NYU)) ・福岡 万里子 (日本学術振興会特別研究員PD(東京大学史料編纂所) |
会場 | 東京大学総合図書館1F 洋雑誌閲覧室 |
来場者 | 81名 |
twitter |
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