東大新図書館トークイベント2 越境する図書館:批評と創作のあいだで(小野正嗣氏、柴田元幸教授)
2013年7月5日(金)18:00-20:00 東京大学総合図書館 1F 洋雑誌閲覧室
小説家として、比較文学研究者として、書評者として、多様な活動をされている小野正嗣氏と、アメリカ文学研究者の柴田元幸教授をお迎えして、小野氏の講演会、小野氏と柴田教授の対談という2部構成でイベントを実施しました。第1部の講演では、関連展示「関心の海と書評の小島-作家 小野正嗣と5つのまなざし-」にて展示中の作品も採り上げつつ、文学作品から見る図書館等についてご紹介いただきました。また、第2部では、読書や創作行為等について会場も交えた白熱したトークセッションとなりました。
Speakers
*プロフィールはイベント当時のものです。
小野 正嗣 Masatsugu Ono
明治学院大学准教授。東京大学院総合文化研究科博士課程満期退学後、パリ第8大学にて文学博士を取得。クレオール文学・文化の研究者であると同時に、作家として小説、評論、エッセイ、翻訳などの幅広い創作活動を展開している。著作『にぎやかな湾に背負われた船』(朝日新聞社、2002年)で第15回三島由紀夫賞受賞。また、2013年発表の『獅子渡り鼻』(講談社)も含め、3度にわたり(『水死人の帰還』(2003)、『マイクロバス』(2008))著作が芥川賞候補となっている。柴田 元幸 Motoyuki Shibata
東京大学大学院人文社会系研究科教授。現代アメリカ文学専攻。ポール・オースター、スティーブン・ミルハウザーなど多数の作家の翻訳を手がけ、2010年にはトマス・ピンチョン『メイスン&ディクスン』の翻訳で第47回日本翻訳文化賞を受賞している。エッセイ、評論も多数執筆しており、2005年の『アメリカン・ナルシス-メルヴィルからミルハウザーまで』ではサントリー学芸賞を受賞。
イベントレポート
作家と図書館との関係・文学作品から見る図書館
小野氏の講演では、フロイト理論等を交えつつ、具体的な作家名や作品名を挙げながら作家にとっての図書館がどのような場所か、文学作品の中でどのように図書館が描かれているか、についてご説明いただきました。フロイトに倣って、無意識の欲望が変形・昇華されたものが文学作品であると仮定すると、図書館は無数の妄想や幻想が集まる場所となり、そこでは隠された欲望が来館者たちに解放されています。図書館は現実的な世界から隔離された別種の現実が支配している場所であり、来館者がその場で白日夢・夢想に浸ることを許してくれます。そして、その妄想や欲望を物語として書き起こすのが作家なのです。また、図書館は本を読むためだけの場所ではなく、他者の言葉を書き写す場所でもあります。自分の手で書き写すこと、手を動かして、他者の言葉の中に分け入ることにより、作品の言説の内容を理解し、体全体に刻み込むのです。講演では、小野氏の故郷のお話も盛り込みつつ、作家と図書館との関係・文学作品から見る図書館について語っていただき、随所に笑いが起こる小野氏の軽快なトークに会場は魅了されていました。
トークセッション
来場者からの質問にも応じつつ、第1部の講演での話も踏まえて、小野氏と柴田教授によるトークセッションは和やかな雰囲気の中進められました。文学研究では、単なる作品の読み手とどう異なるのかという来場者からの質問に対しては、時代によって文学研究の手法は異なるが、文学作品に感動した理由を分析することが重要だという回答がありました。また、どんな職業であっても文学と関わることができるので、本が好きで、本を読み続けたいというのならば、学問的な手法に捉われず、好きな本を読む時間を大切にしてほしいとのメッセージをいただきました。
さらに、図書館の予算の話から発展して、日本が先進国の中で教育に割いている金額が最も少ないことに危惧する話もありました。学問研究は直ちに実果を伴わないことが多いため、危惧すべき状況が看過されやすいですが、このような事態を変えていかなければならないでしょう。電子書籍が広まりつつあり、読む行為が変容していく時代にあって、来場者の皆様と、本を読んだり、作品を創り出したりすることの行為を改めて見つめる機会を与えてくれるトークセッションとなりました。
イベント概要
概要 |
越境する図書館:批評と創作のあいだで 現在進行中の新図書館計画に関連するトークイベントシリーズの第2回目は、講演会と対談形式の2部構成で実施します。 第1部は、作家・小野正嗣氏の講演会、第2部は、小野氏と柴田元幸・人文社会系研究科教授の対談です。新図書館計画は、紙と電子、日本と外国、過去と未来など、従来の境界を越境する試みであるとも言えます。小説家として、比較文学研究者として、書評者として、多様な活動をされている小野正嗣氏と、アメリカ文学研究者の柴田元幸教授のお二人は、異なる言語、文化の境界を越えて新たな作品と知を生み出し続けています。乗り越えられるものとしての境界、その裂け目、あいだの地点から「文学の未来」を切り拓くお二人の声は、新しい図書館にも新たな地平を拓いてくれるに違いありません。 |
開催日時 | 2013年7月5日(金) 18:00~20:00 |
講師 | ・小野 正嗣 (作家・明治学院大学准教授) ・柴田 元幸(東京大学大学院人文社会系研究科教授) |
会場 | 東京大学総合図書館1F 洋雑誌閲覧室 |
来場者 | 81名 |
twitter |
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