館長挨拶

柏図書館長 就任のご挨拶(味埜俊館長)


味埜図書館長

はじめに

2017年4月1日付けで東京大学柏図書館長を拝命しました味埜俊です。3月31日までは、同じ東京大学柏キャンパスに位置する大学院新領域創成科学研究科で研究科長を務めていました。私自身の専門は工学でしたが、その後、人類のサステイナビリティに関わることなどいわゆる文理融合の境界線上を歩きつつ今日に至っています。これまで図書行政に関わったことはなく、私にとって初めての領域での仕事と言うことになりますが、精一杯務めたいと思います。

柏図書館の役割

柏図書館の果たすべき役割は、これまで同様、下記であると考えています。

  1. 東京大学附属図書館の柏キャンパスの拠点図書館としての、総合図書館@本郷キャンパス、駒場図書館@駒場キャンパスと連携した全学に対する役割
  2. 新領域創成科学研究科のホームライブラリとしての役割
  3. 柏キャンパスが目指す国際キャンパスを支える役割
  4. 柏キャンパスの周辺地域連携の拠点としての役割

開館12年を迎えた柏図書館

柏図書館は2005年の開館以来、歴代館長先生のもとで発展を続けてまいりました。

雨宮前館長から引き継いだ重要な課題に自動化書庫の増設があります。IT技術の発展が情報の利用の仕方、さらにその意味にまでも影響を与え、これまで情報集積の場であった図書館の役割も大きく変わってきました。図書館は少なくとも百年単位の時間スケールで人類に有効・有益な情報を集積し活用する情報ハブとしての役割を果たしていく必要があります。そのような状況の中で、図書館に対する多様な要請を満たすためのハードウェアとして自動化書庫があり、その増設は急務と考えています。

一方、柏図書館は地域に開かれた図書館を目指しており、近隣の市民の方々との交流の場として「柏図書館友の会」を作り、書籍の貸し出しに留まらず映画上映会やコンサート開催などの催しも続けてきています。

新しい未来を先取りする柏図書館に

柏キャンパスは今、大きく変わりつつあります。五神総長が打ち出した「筑波-柏-本郷イノベーションコリドー構想」のもとで新しい形の産官学民連携が進んでおり、柏地区はその中核を担います。一方で、貴重な資料をアーカイブ化して残していくという東京大学ならではの事業も全学的に進んでいます。図書館の機能や地域とのつながり方も時代に応じて代わっていかなくてはなりません。これらの変化をしっかり見据えつつ、未来を先取りする図書館になれるように、皆さんと一緒に考えていきたいと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。

 

2017年4月

柏図書館長 味埜 俊(新領域創成科学研究科 教授)


 

柏図書館長 退任のご挨拶「柏図書館の益々の発展を願って」(雨宮慶幸前館長)


雨宮前館長

2017年3月末に定年退職に伴い、柏図書館長を退任しました。

館長を務めた4年間、皆様のご協力により、サイエンスカフェを始めとした様々なイベントを行い、知を愛すること=philo(愛)・sophy(知)=philosophyを、皆様と一緒に大いに楽しませて頂きました。利用者始めご協力頂いた教職員の方々に心から感謝申し上げます。

柏図書館は、東大柏キャンパスの拠点図書館として、また、新領域創成科学研究科のホームライブラリーとして、大きな役割を担っています。知の情報量が指数関数的に増加する現在、図書館の在り方・使い方に関して、今後検討していくべきことが少なからず存在します。

新しく着任された味埜館長のもと、柏図書館が益々発展することを心から期待しています。ありがとうございました。

 

2017年4月

館柏図書前長 雨宮慶幸(新領域創成科学研究科 教授)


 

柏図書館長 就任のご挨拶 (雨宮慶幸前館長)


雨宮前館長

2013年7月に大和館長からのバトンを受け、柏図書館長を務めることになりました雨宮慶幸です。

柏図書館の役割

柏図書館の果たすべき役割は、これまで同様、下記であると考えています。

1)東京大学付属図書館の分館としての、総合図書館@本郷キャンパス、駒場図書館@駒場キャンパスと連携した全学に対する役割
2)新領域創成科学研究科の部局図書館としての役割
3)柏キャンパスが目指す国際キャンパスを支える役割
4)柏キャンパスの周辺地域連携の拠点としての役割

開館10周年を迎える柏図書館

柏図書館は2005年の開館以来、歴代館長先生のもとで発展し、早くも、開館10周年を迎えようとしています。

IT技術の発展により情報量が飛躍的に増加し、一人の人間の頭脳が取り扱うことのできる量を遙かに凌ぐ量の情報が日々私達の生活空間で飛び交うようになりました。それにより、これまで情報集積の場であった図書館の役割も大きく変わってきました。電子媒体による情報量は紙媒体のそれに比べて今後も単調増加を続けて行くでしょう。しかし、膨大な情報の中には、直ぐに陳腐化していく情報も多くあります。図書館は少なくとも百年単位の時間スケールで人類に有効・有益な情報を集積し活用する情報ハブとしての役割を果たしていく必要があります。開館10周年を迎えることもあり、自動化書庫の増設を検討すべき時期に来ていると考えています。

新しい未来を先取りする柏図書館に

情報のスピード化が求められる時代であればあるほど、情報に使役されるのではなく、情報を使いこなすことのできる智惠が求められます。柏図書館がそのような智惠をクリエイトする空間として機能できるように、また、未来を先取りする図書館になれるように、皆さんと一緒に考えていきたいと思っています。

これまで同様に学生、教職員、そして地域の皆様に役に立つ図書館として発展を願い、微力ながら全力を尽くすつもりです。よろしくお願いします。

 

2014年1月

柏図書館長 雨宮 慶幸(新領域創成科学研究科 教授)


 

退任のご挨拶 「図書館を使おう」 (大和裕幸前館長)


大和前館長

柏図書館長を退任いたしました。図書館の仕事をしたのは今回が初めてで皆様のご協力に深く感謝いたします。

現在、総合的教育改革で全学が努力を重ねているところですが、一生勉強を続けて、世界に貢献する学生を作ることが目的でしょう。 そのためにも学生諸君には卒業後も図書館をうまく使うスキルを在学中に身につけてもらうことが大事です。 それは充実した人生のための基本の一つになると思います。

また図書館はデジタル化の大きな流れや、公共的な知識集積と発信の場として大きく革新をとげなくてはなりません。 東大3図書館のなかで柏図書館にはその先導的役割を期待されています。

大学と学生と地域の皆さんで作り出す柏図書館の益々のご発展を祈念いたしております。


 

柏図書館長 就任のご挨拶 (大和裕幸前館長)


大和前館長

はじめに

この4月より柏図書館長を拝命致しました大和裕幸です。

柏図書館は2005年の開館以来、歴代館長先生のもとで発展して参りました。これまで同様に学生、教職員、そして地域の皆様に役に立つ図書館として発展を願い、微力ながら全力を尽くすつもりです。

知の展開方法と図書館

図書館はかつて大学の中心であったと思われます。

いままでは、知識を保存するメディアは書籍などの紙の媒体でありました。紙と印刷術の発明は世界史の中での輝かしいエポックであったと思います。しかしインターネット時代の到来で、図書館に行かなくても大量の資料が瞬時に自分のコンピュータに集まるようになりました。紙では保存できない映像などの資料も多く所蔵、活用されるようになりました。また自分の研究成果の公開も紙によらなくなりました。

研究者の学問研究のスタイルとその公表のありかたばかりでなく、人類の知の創出、展開、利用の仕方はここ10年で大きく様変わりしました。図書館の利用のありようは大きく変わり、図書館の利用者数は減少の一途をたどっております。図書館もメディアの多様化に対応し、新しい機能を備えなくてはなりません。

これからの柏図書館

このような一般的な現状に対して柏図書館がどのような役割を果たして行くか、どのような特徴を持つべきかを考えなくてはなりません。柏図書館固有の使命、すなわち駒場図書館と同様に全学の附属図書館の分館であるとともに、1)新領域創成科学研究科の部局図書館であること、2)国際キャンパスを支えること、3)地域連携の拠点であること、を念頭において考えて行かなくてはなりません。

全学的には保存図書館として、重い責任を担っています。部局の図書館であることは、学融合を理念とする研究科の多様な教育研究に大きく貢献するばかりでなく、学生が広く知識を吸収する場を提供することも必要と思います。国際キャンパスという意味では、外国人留学生やその家族へのサービス、また様々なメディアを通してこれから来る留学生にもアピールできる図書館でなくてはなりませんし、国際的な教育研究情報の流通の拠点になる必要もあります。地域の皆様には友の会活動等を通じてすでにおおくのご貢献をいただいておりますが、さらに地域全体の知的あるいは教育的な発展に貢献しなくてはなりません。

これらの活動から未来の具体像を描き、まもなく10年が経過する柏図書館の第二期事業構想につなげていきたいと思います。

あこがれの柏図書館へ

大きく長期的なこと、そして明日にでも出来ることなど様々にあります。学内外の皆様や柏キャンパスばかりでなく東大全体の教職員の皆様とよくお話しをして一つずつやって参ります。全学の将来構想ともリンクして東大全学の理念の実現に寄与することも要請されています。

我々の世代は子供の頃から、本や図書館にあこがれる気持ちが強くあります。家の本棚に漱石全集や平凡社の国民百科事典があったのが、きちんとして図書館のようだとうれしく思ったものでした。柏図書館があこがれの場であり、また世界の図書館のお手本となるように、努力を重ねていきたいと思います。

 

以上

2012年6月

柏図書館長 大和 裕幸 (新領域創成科学研究科 教授)


 

歓酒 (河野重行前館長)


送別会
柏図書館長の3年は長いようで短い。金屈巵(きんくっし)ならぬ、お豆腐で別れを惜しんだ居酒屋の前で・・

 

本好きだからといって図書館長に推されて3年、柏図書館や図書行政にもずいぶん精通できたように思います。任期が明けてからのこれからは、広い閲覧室で悠々と読書する醍醐味をたっぷりと味わいたいと思っております。この3年で、柏図書館は、夜間開館はもとより土曜開館も実現し、キャンパス図書館として過不足無いサービスが可能となりました。その陰には図書職員の奮闘があったことは申し添えるまでもありません。また、外国人留学生を含むジュニアTAによる選書なども実現し、英語によるガイダンスなどとあいまって、柏キャンパスの国際化にも大きく貢献したのではないかと思っています。「実査」という言葉を初めて知ったのもこの頃です。1冊ずつ実際に図書館にある本全部チェックするのが実査で、これがなされて初めて図書館の蔵書を確定することができます。ところで、柏図書館の蔵書の数をご存じでしょうか? 366462冊です。これはこれからも増え続けます。学内の保存書庫というのも柏図書館の重要な機能だからです。

上映会や「わくわくミニコンサート」も柏図書館の魅力の一つです。今や図書館は蔵書と閲覧・貸出しという図書館本来の基本的な機能だけでなく、コモンズという知的で楽しい空間を提供することも一つの使命となっています。上映会では、『送り人』や『カモとアヒルのコインロッカー』といったヒット作ばかりでなく、『美味しいコーヒーの真実』や『PhD Movie』あるいはBBCのシリーズものなど普段あまり目にすることのないものを上映しました。特に、最新上映の『PhD Movie』は東大初で、留学生にも大変好評だったようです。こうした映画を通じて、アメリカの大学院事情や日本のポスドク問題を考える一助になればと思っています。東大初といえば、ビブリオバトル(書評合戦)をやったのも、東大では柏図書館が最初かも知れません。

地域との関わりも見逃せません。柏図書館は地域住民に開放されていますし、「柏図書館友の会」に入会すると図書やDVDの貸出しも受けられます。友の会は上映会や「わくわくミニコンサート」を積極的に後援しており、こうした活動を通じて学生と地域のコミュニティーが形成されればと思っております。『美味しいコーヒーの真実』や『PhD Movie』といった映画を通じて留学生との語らいを持てたらと思っておりますし、「わくわくミニコンサート」には留学生の参加も目立つので、コーヒーブレイクの折りなどに留学生と地域住民との交流なども生まれればと願っております。

さて、唐代の詩人、干武陵に「歓酒」という五言絶句があります。井伏鱒二が『酔いどれ詩集』の中で意訳しているので、「ハナニアラシノタトヘモアルゾ「サヨナラ」ダケガ人生ダ」というフレーズを聴いたことのある方も多いように思います。『グッドバイ』という作品を残して逝った太宰治の師を自任していたのが井伏だったことを思うと、

歓君金屈巵  君に勧む 金屈巵

満酌不須辞  満酌 辞するを須いず

花発多風雨  花発けば 風雨多し

人生足別離  人生 別離足る

という漢詩にはさまざまな思いが錯綜します。寺山修司も「さよならだけが人生ならば」という詞を69年に書いていて、小室等の音楽ユニット「六文銭」が

さよならだけが人生ならば また来る春は何だろう

はるかなはるかな地の果てに 咲いている野の百合何だろう

と歌っています。井伏や太宰などではなく、この歌のほうで干武陵の「歓酒」を知ったという方も多いに違いありません。私もその一人で、なみなみと注いだ杯をいつかは飲み干してみたいと切に思っていた頃のことです。

三月も半ばを過ぎるとしばしば学生に色紙を頼まれます。大学で禄を食んでいるものの宿命なのでしょうがこれがなかなか難しいのです。いつの頃からか、「花発多風雨 人生足別離」と窮して書くことが多くなっています。ふと、寺山修司が「さよならだけが人生ならば」を書いたのはいつだったか気になって、インターネットを検索するとそれとは別に「平知盛」の名が引っかかってきました。知盛といえば、歌舞伎の『義経千本桜』で碇を背負って大見得を切るあの碇知盛のことで、壇ノ浦に沈んだ平家最後の総大将です。知盛が干武陵の「歓酒」を吟ずるシーンがあるのかしらと思い、『平家物語』巻第十一、壇浦合戦の前後を何十年ぶりかで読み直してみたが見つかりませんでした。

そんな三月、またもや色紙に窮していると、「先生も『遙か3』のファンですか?」と聞かれました。干武陵の「歓酒」は、『遙かなる時空の中で3 十六夜記]というゲームのエンディングで、登場人物のひとりである「知盛くん」が吟ずる詩として有名らしいのです。ゲームでは知盛くんは新中納言と呼ばれているそうなので、それはそれで『平家物語』の平知盛と一緒のようです。ただこうなると俄に手に負えなくなります。ソフトは兎も角、PS2というゲーム機を持っていないし、少なくとも柏図書館ではそれは借りられません。勿論、昨今、図書館も電子媒体に強い関心をもっていて、CDやDVD、ゲームといったパッケージものを漏れなく集めたりしているところも多いようです。しかし、それらを閲覧したり貸し出したりしようとすると著作権を含め問題山積で手を拱いているのが現状です。

大学図書館はどこも岐路に立たされているように思われます。「学生が本を読まなくなった」というのは老教員の繰り言ですが、印刷された書籍が必ずしも必要でなくなっているのも現実です。そんなことは、ずいぶん前から言われていることで、今に始まったことではないと言われるかも知れません。ただ、柏図書館長を務めた3年間は、電子ジャーナルがあれば事足りる学生にとって図書館とは何だろう? この国の文化のありようそのものが本を必要としなくなっているのではなかろうか? という思いがいつも頭を過ぎっていた3年でもありましたが、みんなにたくさんの本を読んでもらいたい一心の本好きの図書職員と柏図書館にさまざまの工夫を凝らした3年でもあったように思います。

なみなみと注がれた杯を前に、「満酌 辞するを須いず」とつぶやくと「それって遥か3」と聞かれそうな昨今、「花発けば 風雨多し」と文字通り風雨に曝されがちだった柏図書館を支えてくれた多くの図書職員の方々に厚く御礼申し上げます。「人生 別離足る」と・・・

2012年5月

元柏図書館長 河野 重行


 

幻の大図書館 (河野重行前館長)


夜の柏図書館
闇に浮かぶ輝く建屋はどこか異教の神殿を思わせる。

 

柏キャンパスではこのところ多くの外国人を見かけます。東京大学の国際化推進構想が少しずつ実を結んでいるように思います。柏図書館では、留学生が快適な図書館ライフを送れるように、新入生のガイダンスには日本語だけでなく英語のコースも開催しています。講師にはネイティブスピーカーを招き、英語のガイダンスビデオも用意しています。留学生には英語を母国語としない留学生が多いので、それだけで十分かと聞かれると少々心許ない気もしますが、図書館を快適に利用するための細かい約束事や微妙なニュアンスを英語らしい英語で正確に伝えることも国際化には欠かせないことの一つでしょう。柏図書館ではその年に購入する図書の選考の一部を学生に依頼していますが、最近はその選考に留学生も加わってもらっています。そうすることで、洋書が増えるのは勿論、日本人の職員や学生では思いもつかない書籍や雑誌をリストに加えることができるからです

これまで知らなかった世界を教えてくれるという意味でも留学生との交流は楽しいものです。私の研究室にもエジプトからの留学生がいて、「スフィンクスの謎」、「太陽神ラーの秘宝」、「ナイルのワニに噛まれたら… 」、「パピルスの呪文」、「ラマダーンの季節」、「将軍アムルのエジプト征服」、「スエズ運河を掘ったのは?」「名探偵ポアロとナイル」、「エジプト革命」、「ナセルの知略とイギリス」などといった取り留めもない話をよくしたものです。「古代アレクサンドリア図書館を焼いたのはシーザーだ」というのは妙によく覚えている話しです。アレクサンドリア戦役の折(BC48年)、プトレマイオス朝最後の女王クレオパトラを救うために放った火が、王立大図書館の70万巻もの書物を焼いたらしく、この灰燼に帰した図書館こそ幻の古代アレクサンドリア図書館だったというのです。ただ、2001年、エジプト政府は、ユネスコの協力で11階建ての巨大図書館をアレクサンドリアに再建していて、蔵書800万冊の世界図書館を目指しているということでした。新アレクサンドリア図書館には公式日本語サイトもあります(http://www.bibalex.jp/Japanese/index.htm)。今年2月のエジプト政変では、また焼かれてしまうのではと心配しましたが、ロイター通信のサイトに「反政府デモが続く中、新アレクサンドリア図書館を若者たちが昼夜守っている。」という動画が載っていて安心しました。

3月11日の東北地方太平洋沖地震で発生した大津波は、波高10メートル以上、最大遡上高38.9mにもなる巨大なものだったことが分かっています。破壊され尽くされた家々の光景には息を飲む思いがします。特に報道はされていませんが、この大津波で海辺にあった市井の図書館とその蔵書のほとんども消滅してしまったように思います。震源から400㎞以上も離れた柏キャンパスですら約2万冊の蔵書が棚から落下しました。物性研の図書館は建物の6階にあったため、ほとんどの蔵書が棚から崩れ落ち、余震の影響もあって3ヶ月近く経った今も復旧できていません。柏キャンパスでも地震の破壊力をまざまざと実感しています。地震と津波の脅威は世界中にあって、港湾都市だったアレクサンドリアも何回かの大津波に襲われたようです。365年7月21日に発生した大津波では、「海が一気に後退して海底がむき出しになり、たくさんの海洋生物が見えるほどだった」とローマの古文書には書かれているそうです。ただ、アレクサンドリア戦役の戦禍を免れた古代アレクサンドリア図書館が滅んだのはこの津波ではなく、391年のテオドシウス帝の布告によることが分かっています。テオドシウス帝は「キリスト教国教化」と「ローマ帝国の東西分割」で世界史選択の受験生にはお馴染みかも知れません。

古代アレクサンドリア図書館の滅亡を描いたスペイン映画が封切られています。原題は『AGORA』、古代ギリシアの中央広場のことです。邦題は『アレクサンドリア』、配給元はギャガ(GAGA)で、「4世紀、エジプトのアレクサンドリア、世界中から学問を求める人々が集まっていた。そこで伝説を残した実在の天文学者がいた。ヒュパティア、美しく聡明な彼女は… 」というキャッチコピーが付いて、図書館員ならずとも食指を動かされます。この映画は古代アレクサンドリア図書館の最後の館長とその娘ヒュパティアの物語でもあるからです。舞台となったのはテオドシウス帝の時代(376-396年)で、古代の学術研究センターで博物館(Museum)の語源ともなったムーセイオン、神殿セラペイオンとその聖域内にあった図書館(BC48年に焼けた王立大図書館の姉妹館)が生き生きと描かれています。セラピスはプトレマイオス朝エジプトの国家神で、セラペイオンはその神殿だそうです。319年にテオドシウス帝はアレクサンドリアのキリスト教主教テオフィロスの求めに応じて、エジプトの異教神殿やその施設を破壊する許可を与え、津波のように押し寄せる暴徒と化したキリスト教徒によって、「知の象徴」でもある古代アレクサンドリア最後の図書館は破壊され尽くされてしまいます。ヒュパティアの運命も過酷で、キリスト教の修道士たちによって、カキの貝殻で生きたまま肉を骨から削ぎ落とされて殺害されたと伝えられています。415年3月のことです。

夜の柏図書館はどこか異教の神殿めいています。セラピスの巨大な立像をもったヘレニズム様式のセラペイオンにあった図書館とは較ぶべくもありませんが、闇に浮かぶ輝く柏図書館を見るたびに、古代アレクサンドリアの大図書館やヒュパティアの運命が脳裏を過ぎります。柏図書館も千年の伝説となって語り継がれることがあるのだろうか… と思うと、 星の鼓動や天球の運動を感じるような気分になります。ヒュパティアも古代アレクサンドリアの図書館でそれらを感じていたのかも知れません。

2011年5月

柏図書館長 河野 重行


 

2010年の光陰 (河野重行前館長)


ガンジスの光陰
ガンジス川東岸に昇る朝日、ブッダもこの光景を目にしたことだろう。

 

年初の挨拶を書く予定でしたが、アッという間に1月も終わってしまい、もう2月も中旬です。「光陰矢の如し」とよく言いますが、矢の速度は年々歳々早くなるようです。20歳の学生の1年は彼らの人生の1/20ですが、60歳の教員の1年は人生の1/60にしかなりません。1年を学生の1/3程度にしか感じないことになります。「時間の長さは年齢と反比例する」とは誰もが感じることです。この経験則には名前が付いていて、『ジャネーの法則』と呼ぶそうです。その真偽を確かめた心理実験もあるようで、例えば、3分の長さをあてる実験では、2~4歳の加齢ごとに約1秒ずつ短くなるようです。失われた時間を求めて、「少年老い易く学成り難し、一寸の光陰軽んずべからず」と、お呪(まじな)いのように唱(とな)えてみても無駄のようです。

1月の末、柏図書館に、「中学生の職場体験実施中」の張り紙がでていました。気付かれたかも多いかと思います。中学校では、職場体験を通して、発達段階に応じた望ましい勤労観・職業観をはぐくみ、自らの進路選択・決定に必要な能力・態度を身に付けることを目的とした職場体験プログラムを実施しているようです。柏図書館は今回が初めてですが、柏市立西原中学校の2年生がやって来て、書架の整理や清掃、ラベル貼りなど図書館の定番業務は勿論のこと、OPAC検索や柏図書館の誇る自動化書庫を利用したe-DDSサービスなどを体験しました。OPACは“Online Public Access Catalog”の略で、図書館の目録情報をネットワークによって公開し一般利用を可能にしたものです。また、e-DDSは、“electronic Document Delivery System & Services”の略で、文献をスキャンし、PDFファイルにし、e-DDSサーバにアップしてメールで知らせします。利用者は図書館に来館することなく19世紀や20世紀の古い文献でもたちどころに入手することができます。

中学生が、社会(大学図書館)の仕組みを実地に学び、社会の一員としての自覚を持つようになり、そして何よりも、人々の様々な生き方にふれ、自分の将来を考える機会として欲しいと担任や職場の大人達は願っています。こうした大人の願いと地域の事業所や企業の積極的な関与が、中学生の職場体験プログラムの実施には絶対の条件となります。中学校側も熱心に受け入れ事業所を開拓しているようです。今回、柏図書館に依頼があったのは、『柏図書館友の会』『わくわくコンサート』などの地域に根差した柏図書館の地道な活動で、地域での知名度がアップしたためだろうと思っています。

光陰とは言いえて妙です。「光」は日、「陰」は月、光と陰とで、「光陰」は月日のことです。「月日は百代の過客にして、行きかう年もまた旅人なり」となると少々哲学的ですが、これも芭蕉の思いでしょう。さて、件(くだん)の中学生達は14歳で、彼らの1年は人生の1/14です。柏図書館を主に利用している大学院生のそれはもうすでに1/23、24となっていますが、それでも1年の長さは私の倍にもなります。まだまだ感受性も豊かでしょう。彼らが、大学図書館を足繁く訪れて、インクや紙の匂い書架に充満する蔵書に圧倒されないで、科学や学問あるいは本から得られるありとあらゆる知識に憧れや畏敬の念を持ってくれたらと思います。柏図書館は、まだまだ長い人生の一年を持つ若い方々の一生の何処かに鮮烈な印象を残せたらと思っております。最後にもう一度、「少年老い易く学成り難し、一寸の光陰軽んずべからず」と書いておきましょう。

2010年2月

柏図書館長 河野 重行


 

ご挨拶 (河野重行前館長)


河野前館長

柏図書館長を務めるようになってそろそろ3ヶ月になります。図書館の魅力はもちろん図書館が抱える問題点なども見えてきたように思います。ご挨拶に代えて、館長として、最近感じていることを少し書いてみましょう。

図書館というと書棚や書庫にたくさんの本があって、それを閲覧したり貸出したりするというのが昔ながらのイメージです。しかし、IT革命というか、PCやインターネットの普及で、図書館も急速に様変わりしようとしています。「本のない図書館」は言い過ぎかも知れませんが、本やジャーナルの現物をそれほど必要としなくなっております。図書館に行かなくても、PCをインターネットにつなげば即座に最新刊のジャーナルや研究論文が読める時代なので、大学院生や研究者が中心の柏キャンパスでは、一度も柏図書館に来ないで卒業したなどという学生もいるようです。東京大学では、ジャーナル購読料の値上がりに備えて、冊子の購入はできるだけやめて、全部電子ジャーナルにしようという議論が始まっています。ここに来て「ジャーナルのない図書館」がにわかに現実味を帯びています。

柏図書館は、東京大学の保存書庫(自然科学系バックナンバーセンター)という使命もあるので、そこから本が消えることはないでしょう。図書館が好きなものにとって書架から雑誌やそのバックナンバーが消えるのは淋しい限りですし、図書館にとってもある種の脅威です。図書館の業界では、最近、「ラーニング・コモンズ(Learning Commons)」という言葉が流行っています。「コモンズ」というのは「共有地」という意味ですから、「学ぶための共有地」とでもなりましょうか、「場所としての図書館」という考え方です。今、世界中の図書館で、学生の日常的な学習・共同活動・コミュニケーションを「一つの環境として」サポートしようとする試みがなされています。それがラーニング・コモンズです。柏キャンパスは、大学院生や研究員が中心なので、学部学生が中心の駒場や本郷とはまた違った趣のラーニング・コモンズが必要になるでしょう。大学院生や研究者に相応しい「場」を工夫して提供できればと柏図書館は考えています。

遊びの場を提供しようというのも工夫の一つです。「遊ぶ」というと目くじらを立てる方がいるかも知れません。ヒトを「ホモ・ルーデンス」と呼ぶこともあります。「ヒトの学名はホモ・サピエンスではなかったかしら」といぶかる方もいるかもしれません。ホモ・サピエンスは「賢い人」を意味しますが、ホモ・ルーデンスは「遊ぶ人」という意味です。人間は「遊ぶ存在」であり、遊びこそヒトをヒトたらしめたという考えからの命名です。柏図書館はより人間的な活動をサポートできたらと考えています。ミニコンサートやDVD上映会など、遊びの要素をふんだんに取り入れた活動も、これまで以上にサポートできたらと考えています。こうした活動は、「柏図書館友の会 (Kashiwa Library Club)」とともに、柏図書館を中心とする地域連携の環を拡げる上で大きな力となるでしょう。先日あったミニコンサートのアンケートに、「音楽のあるキャンパスは素敵です。」というお答えがありました。魅力的なキャンパス作りに、柏図書館がいつも中心的な役割を果たせたらと職員一同願っています。

2009年6月

柏図書館長 河 野 重 行